ごっちゃんの魅力にメロメロなのよォ - ママはテンパリストの感想

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ママはテンパリスト

4.104.10
画力
3.70
ストーリー
3.70
キャラクター
4.50
設定
3.40
演出
4.30
感想数
5
読んだ人
12

ごっちゃんの魅力にメロメロなのよォ

3.53.5
画力
3.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
4.0

目次

子持ちの方も独身の方も楽しめる一冊なのよォ

『ママはテンパリスト』はれっきとした子育て漫画だが、はっきりいって子供がいようがいまいが楽しめる一冊だと思う。

基本的には、筆者・東村アキコと、愛息・悟空くんことごっちゃんの日常が終始コメディタッチで描かれている。ごっちゃんが主役かと思えば、ミステリアスな担当・Sさんやコーラスの編集長といったユニークな実在の人物たちが欠かさず描かれたり、ほぼ一冊に一度の割合で増ページに戸惑い嘆く東村アキコの姿も見られたりもする。ギャグ漫画家・東村アキコの面白さがこの一冊に詰まっている、といっても過言ではない。

ギャグ漫画をして、「このギャグのどこが面白い」と示すのは非常に難解だ。プロのコメディアンや漫才師のタマゴであればそこらへんをきっちり分析してくれるのだろうが、あいにく筆者は面白い物事を理屈に変えて考えるのが非常に苦手な人間であって、東村アキコのギャグ漫画の面白さを表現するのはちょっぴり難しい。

一つだけ言える確かなことは、東村アキコの面白さを生み出しているのはその巧みな観察眼に依るものだ、ということだ。

たぶん普通の人間が編集長や担当Sさんを見ても、気にも留めないだろう。そこを東村アキコの眼――東村アキコフィルターを通すと、どんな凡人も変人に仕上がってしまう。そしてフィルターそのままをキャラクターとして落とし込んで漫画化するが故に、面白いキャラクターが生み出され、結果として面白い漫画が出来あがるのであろう。

才能っていうのはごくごく普通の個性から出来上がるものだなぁ、としみじみと思う次第だ。

決してごっちゃんは変わった子供ではないのよォ

筆者も甥を我が子のように手塩にかけて育てた経験があるため、子育ての大変さはつくづくわかっている(というと、親には「あんたはからかって遊んだだけでしょ」と言われてしまう。おかしいなぁ)。

そこでわかったのは、子供というのは自然の寵児であるということだ。要するに制御不能の存在なのである。たかだか二十年そこら生きてきた人間が倫理道徳を説こうがまぁ無意味という訳です。馬の耳に念仏とはまさにこのこと。奴らは好きに暴れ、好きに泣いて、どこからか電波を受信したとしか思えない謎の言葉を吐いて大人を翻弄する。人間の幼児の皮を被った自然災害に太刀打ちできる訳もない。本当に親ってすごいですよねー。

そこに果敢に立ち向かったりスルーしたり遊んだりする東村アキコの奮闘記。母親という存在そのものに頭が下がる思いである。同時に、「実際に親となって育てることはこれだけ大変なんだな」、と改めて思い知らされた。

繰り返し述べるが、子供というのは自然の権化だ。漫画ではごっちゃんの変わった行動・言動がピックアップされているが、これは何もごっちゃんに限ったことではない。子供ならぶちまけて当たり前、テレビから影響を受けて当たり前、道端で拾った謎の物体を大事にしまって当たり前なのである。甥っこを育てたと自称する筆者も、「あぁ、こんなことがあったなぁ」と読んでいて懐かしい気持ちになった。

と、いうことは、である。『ママはテンパリスト』はギャグ漫画であり、育児漫画であり、これから育児をするであろう人々にとっての、虎の巻である、といえよう。

もし読んだ方々が人の親になったとき、めちゃくちゃこの漫画に共感するんだろうなぁ。

『ママはテンパリスト』にみる都会の子育てとは

この漫画は現実に起こっていることを描いたエッセイ漫画である。東村アキコによる等身大の子育てが描かれているなかで、考えさせられることも多い。

まず、育てる人間の問題。東村アキコは漫画の途中で訳あってシングルマザーになっているようだが、両親は不在で、ごっちゃんの肉親は一人だけである。漫画家として在宅で仕事をしているものの、多忙でごっちゃんに構っている時間はほとんどない。

そこで手伝ってくれるのがアシスタントたちや編集だ。

愛情ある彼らのおかげでごっちゃんは寂しい思いもせず、むしろよく懐いていたようだが、彼らがいなかったとしたら?と考えるとゾッとしてしまう。

もしアシスタントたちや編集者の協力がなかったら、『ママはテンパリスト』はここまでコメディタッチにならなかっただろう。たぶん、ストレスと忙しさで、以前あったことを振り返る余裕さえないはずだ。『ママはテンパリスト』があるのも、協力者の存在があってこそだと筆者は考えている。

裏を返せば、東村アキコは周囲に恵まれているといえる。だが、この現代の存在する母親たちの多くは、誰にも頼れず、抱えているストレスや不満を発散できないまま、日々子育てをしているのだと想像してしまう。

これは簡単には言い表せない地獄だ。寝る間もなく愛する子供たちに苦しめられる日々。そこは愛情でカバー出来るのかもしれないが、それでも母親たちが苦しい思いをしていることには違いがない。そこに周囲の無理解に追い詰められたり、正社員で働けなどと社会に押し付けられたりしたら……。

考えただけでゾッとしてしまう。そしてそれは、決して対岸の火事ではないのだ。

自分の家族や友人がこんな苦しい思いを強いられる世の中になったらと思うと、とても悲しい。待機児童の問題しかり、女性の雇用問題しかり、もっと我々は子育てについて考えるべきなのではないだろうか……。

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ダメ母ばんざい!な育児エッセイ

作者 東村アキコと一人息子ごっちゃんとの掛け合いがとにかく面白い育児エッセイ、通称ママテン。本人がはっちゃけた人なだけに、子育ても枠にとらわれない自由な子育て。息子とうまい棒を取り合ったり、息子に宝塚メイクを施したりと、とにかく毎日を喧嘩しながらも楽しく過ごしているのがとても、よく分かります。注意しなければならないのは読む場所!時折ブフッ!!!と吹き出したくなるような、ギャグ漫画並みの笑いを繰り出してくるので、電車の中や公共の場だと笑いをこらえるのが大変かと思います。笑実際、わたしにもやんちゃ盛りの3歳児がおりますので、ヘタに子育て指南本を読むより、共感して笑えるママテンの方がよっぽど励みになる!笑育児エッセイなので、楽しいことだけでなく、子育てをする中でぶつかる悩みや、周囲の目など、隠しもせずに赤裸々に描かれています。でも、だからこそ漫画家という一般人と少しばかり住む世界の違う人でも、...この感想を読む

4.54.5
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