グラスホッパーと仲間たち
梶の秘書を追い詰めるシーンについて
梶の秘書の追い詰められた理由が、現実にもありそうだと思いました。自殺専門の殺し屋が現実世界に存在し続けているのかもしれません。大物政治家の秘書が自殺するということはわりと昔は結構あったみたいですが、現代版だと、研究論文結果を偽り全世界に批判を受けて、なんとも研究者としてあるまじき発言を記者会見でしたり、挙げ句の果てに出家なんかまでした彼女がぱっと浮かびました。彼女の共同著者だった彼は自殺に追い込まれました。「誰かが責任を背負って自殺するというやり方はそれなりに効果がある」確かにそうだと思いました。連日騒がれていた事件もそちらの話題で持ちきりになりますから。
殺し屋の実在有無はおいておいても、罪を犯した本人の代わりに人が自殺するんだから本人は心を痛めてるだろうと今まで思っていたけれど、実際は違うのかもしれないです。これで非難が収まる。面倒くさいことから逃れられると思っているのかもしれないなぁという気付きを与えられました。
一家惨殺をする蝉について
蝉は岩西の部下なんですが、実行犯は全て彼が行うんですよね。それがまた手際が良く、ソツのない犯行なんです。たとえば一家惨殺を依頼されるシーンがありますが、普通の心を少しでも持っていたら女子供が泣き叫んだり懇願してきたら気持ちは揺らいだりしますよね。しかし蝉の仕事ぶりはあっけなくも完璧に無感情にそつなく殺すだけ。本気で何も思っていないんです。この迷いのなさが、足のつかない未解決事件を生んでいるのかもと思うとこれもまた現実世界に存在するのではないかと思ってしまいます。『この国じゃぁ、たくさん殺したほうが裁判が長引く』日本国家に疑問を呈している場面が多々あります。でも人って機械や虫じゃないから、何度も同じことを繰り返していると脳の中で疑問を作り考えるようになると思うんです。それを岩西のジャッククリスピンの言葉が救っていたのではないでしょうか。小説の中では蝉の殺人に対する疑問や苦悩は出てきませんが、蝉の不平不満に言葉を交わす岩西とのやりとりが、彼の精神安定に作用していて、そこまで考えされる隙を与えない、逃げ道を与えないのです。
鈴木という人間と幻覚が作り上げた世界
鈴木は身内を命を虫けらのように扱う裏社会の人物に殺されてしまいます。その現実は他の現実世界を失うだけの衝撃があることです。恨んでる人がいる、殺したい人がいる、だけど元教師という人格も相まって教え子の顔もチラつくしなかなか理性を無くせないのです。なぜ、他の登場人物、蝉や鯨やミツバチや押し屋は淡々と人を殺していくのに彼だけは結局何もしないのでしょうか。ミツバチが社長を殺すところなんていきなり過ぎてこちらがびっくりしてしまうような支離滅裂ぶりです。これはもしかしたら鈴木の願望が作り上げた世界なのかもしれないのです。
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