ダイレクトに痛い恋愛 - 勝手にふるえてろの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

勝手にふるえてろ

3.833.83
文章力
3.67
ストーリー
4.00
キャラクター
4.17
設定
3.67
演出
4.17
感想数
3
読んだ人
7

ダイレクトに痛い恋愛

3.53.5
文章力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
3.5
演出
5.0

目次

共感できないけど、共感できる

主人公のヨシカは、学生時代に恋した同級生のことが忘れられず、26歳になるまで貞操を守り続けるOLだ。物語を遠巻きに見ていると、この女性はやることなすこと、とにかく、痛い。痛々しい。冒頭のトイレで嗚咽を漏らすシーンから、嘘の妊娠で休暇をもらおうとするシーン、久々に会えたイチ彼の前でぎこちない態度しかできないシーンなど、あまりに苦々しくて見ていられない。

けれど、痛い、と感じるというのは、この物語で奔走するヨシカに、わたしが共感しているからではないだろうか?ヨシカの痛みが、こちらにも迫ってくる。友人に、恋したイチ彼に、好きだと言ってくれたはずのニ彼に、みんなに裏切られたような気がして、自暴自棄になってしまう。環境の違いこそあれど、この作品を読んでいる人にだってそんな経験はあると思う。ささいなきっかけで死にたくなったり、涙が出たり。だからこの痛い女性に共感してしまうのだろう。

イチ彼とニ彼とヨシカ

クラスで人気者、というよりからかわれ役だったイチに、ヨシカは多分ほとんど理由なく惚れてしまう。本人と会話を交わす前から、まるでイチのことを一番理解しているのは自分だ、と言わんばかりにイチの行動のひとつひとつを記憶する。記録する。執拗な観察と心の中の実況中継がちょっと怖い。ニ彼へのざっくりした対応と比べると、その温度差が更に恐ろしい。でもそういう残酷さがときどき周りの人間にも見透かされそうになっている。勝手に周囲を遠ざけているくせに、周囲の人から遠ざけられると、それを敏感に察知して落ち込んでしまう。本当に勝手な人間だと思う。でもやっぱり、そんなところに共感してしまう。

文章の読みづらさ

例えば、句読点の位置によって文章の意味合いががらりと変わることがあるように、綿矢りさの小説では「どういう意味だ」、と文章を読む目を一旦止めてしまう瞬間がある。一つの文章が長くて意味を理解するのに二度読んだり、急にセリフっぽい独白が挿入されて小説のテンションが大きく振れたり。わたしはそういう、いわば不安定さを感じる綿矢節が好きで読んでいるところもあるのだが、今回のヨシカの物語にも少なからずそういうところがあって、それがこのちょっとしたことで軸をぶれさせてしまうヨシカという人間によく合っていると思う。大人になったのに、いつまでも平静でいられない。すぐ心の傾きに体が引っ張られてしまう。そんなヨシカと、そのヨシカを描く綿矢りさの独白にも思える文章が、この作家を身近に感じさせているのではないだろうか。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

射抜くような洞察力。

本命くんとキープ君ようは都合のいいように事を運ぼうとする女性の話だな、と思いました。しかし、そこまで頭の中がお花畑ではないところが妙にリアルで、キープ君からはアプローチを受けていて本命くんの心理ははっきりとわからないという状況でもがいています。嫉妬ももちろん当然の過程のごとくきちんと描かれ、きちっきちっと時間の流れに乗っています。むしろここで劇的な変化をもたらすことも小説の醍醐味ではあるのですが、この作品で綿矢先生は求めませんでした。それこそ「ひらいて」のような刺激に溢れた内容にしなかったのです。そこがまた巧みなんですよね。高校生の恋愛と社会人の恋愛の熱量といいますか、大人の冷静さが可愛げをなくしている描写なんか比較するとぞっとするほど見事です。悲しいかな、大人になると将来というものが現実に成り代わって目の前に迫ってきます。好きだけでは幸せになれない、生活できないことを肌で直に感じてし...この感想を読む

4.04.0
  • 紫
  • 110view
  • 2074文字
PICKUP

こじらせた脳内恋愛の行方

26歳まで、中学生の頃の脳内恋愛(片想い)をこじらせている、OLが、現実の恋愛との間で、どう成長していくかという小説、です。手段は多少卑怯だとしても、中学校以来会って無いイチに会うために同窓会を開くのは、すごい行動力。同窓会中に、次に繋げるための行動を起こす所もすごい。だって、主人公のヨシカは、クラスメイトに名前を思い出してもらえないほどの存在だったのだから…関東に出てきている4人で集まった時、皆が寝てしまってから、2人きりで話せたのに、話は盛り上がっていたのに、名前を覚えてもらって無かった、という些細な事で一気に恋が終わってしまうのは、それって本当に恋だったのか?と。相手がクラスメイト達にいじめられていた、と感じていた事にすら気付かなかったのだし。それって、やっぱり脳内恋愛でしかなかったと思う。二の事は、ずーっと嫌っていたみたいだけど、二の事を最後に名前で呼ぶ所で、二の事を受け入れた...この感想を読む

4.04.0
  • ぱきらぱきら
  • 79view
  • 536文字

関連するタグ

勝手にふるえてろを読んだ人はこんな小説も読んでいます

勝手にふるえてろが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ