ダイレクトに痛い恋愛
共感できないけど、共感できる
主人公のヨシカは、学生時代に恋した同級生のことが忘れられず、26歳になるまで貞操を守り続けるOLだ。物語を遠巻きに見ていると、この女性はやることなすこと、とにかく、痛い。痛々しい。冒頭のトイレで嗚咽を漏らすシーンから、嘘の妊娠で休暇をもらおうとするシーン、久々に会えたイチ彼の前でぎこちない態度しかできないシーンなど、あまりに苦々しくて見ていられない。
けれど、痛い、と感じるというのは、この物語で奔走するヨシカに、わたしが共感しているからではないだろうか?ヨシカの痛みが、こちらにも迫ってくる。友人に、恋したイチ彼に、好きだと言ってくれたはずのニ彼に、みんなに裏切られたような気がして、自暴自棄になってしまう。環境の違いこそあれど、この作品を読んでいる人にだってそんな経験はあると思う。ささいなきっかけで死にたくなったり、涙が出たり。だからこの痛い女性に共感してしまうのだろう。
イチ彼とニ彼とヨシカ
クラスで人気者、というよりからかわれ役だったイチに、ヨシカは多分ほとんど理由なく惚れてしまう。本人と会話を交わす前から、まるでイチのことを一番理解しているのは自分だ、と言わんばかりにイチの行動のひとつひとつを記憶する。記録する。執拗な観察と心の中の実況中継がちょっと怖い。ニ彼へのざっくりした対応と比べると、その温度差が更に恐ろしい。でもそういう残酷さがときどき周りの人間にも見透かされそうになっている。勝手に周囲を遠ざけているくせに、周囲の人から遠ざけられると、それを敏感に察知して落ち込んでしまう。本当に勝手な人間だと思う。でもやっぱり、そんなところに共感してしまう。
文章の読みづらさ
例えば、句読点の位置によって文章の意味合いががらりと変わることがあるように、綿矢りさの小説では「どういう意味だ」、と文章を読む目を一旦止めてしまう瞬間がある。一つの文章が長くて意味を理解するのに二度読んだり、急にセリフっぽい独白が挿入されて小説のテンションが大きく振れたり。わたしはそういう、いわば不安定さを感じる綿矢節が好きで読んでいるところもあるのだが、今回のヨシカの物語にも少なからずそういうところがあって、それがこのちょっとしたことで軸をぶれさせてしまうヨシカという人間によく合っていると思う。大人になったのに、いつまでも平静でいられない。すぐ心の傾きに体が引っ張られてしまう。そんなヨシカと、そのヨシカを描く綿矢りさの独白にも思える文章が、この作家を身近に感じさせているのではないだろうか。
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