その航海、まさに大渡海!
「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」
『機動戦士ガンダム』で若くして少佐となった天才シャア・アズナブルが部下をコントロールしきれずに失敗した際に呟いた有名な台詞です。
若さを武器にエネルギッシュに押し切ってしまう監督もいます。
それはそれで魅力的ではありますが、短命になる可能性も高いでしょう。
フレッシュで新しい感覚を持ち込む監督も重宝されるでしょう。
しかしこれもよほど確立されなければ短命になる可能性も高いでしょう。
弱冠29歳の石井裕也監督が製作した『舟を編む』からは、そういった若さが微塵と感じられません。
原作の作風との相乗効果もあり、若さからはかけ離れた熟練を感じさせるものでした。
なぜか「石井」という姓を持つ監督さんは絶えず現れて新風を持ち込んでくるイメージがあります。
しかし石井裕也監督は新風を巻き起こすようなタイプではありません。
それでも実は石井裕也こそが真打ちなんじゃないかとすら感じさせられました。
見方によっては面白味に欠けるのかもしれませんが、彼だけは天才タイプより秀才タイプに思えるので圧倒的な安心感があるわけです。
まず辞書作りにかかる15年もの長い歳月の途中12年を丸ごと端折って作り出しと完成時に焦点を絞ってしまったセンスが素晴らしい。
辞書作りがいかに単調な作業の繰り返しであったかを「12年後、」の一言で片付けてしまったわけですから。。
原作は読んでいませんが、結婚式やら葬式やらあったのではないですかね。
そんな石井裕也監督が「運命共同体」と言い切ったのが主演の松田龍平。
彼を語らずにこの作品は語れないでしょう!
それもそのはず。 私には松田龍平が、あの偉大なる父・松田優作の面影とも重なったように見えたのです。
それは松田優作がアクションスターからの脱皮を求めた『陽炎座』。
そこで表現された戸惑い、揺らぎ、… そしてなおもまだ、龍平が父の背中を追い続けるのであれば、その先には『家族ゲーム』があるのかもしれません。
その航海、まさに大渡海。
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