大阪のハードボイルドな感覚を体現した映画 - ジョゼと虎と魚たちの感想

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大阪のハードボイルドな感覚を体現した映画

4.24.2
映像
4.0
脚本
4.2
キャスト
4.0
音楽
3.8
演出
4.3

目次

大阪の何ともいえない空気感を体現

2003年作品。この作品の元になっているのは、田辺聖子氏の同名の短編小説です。田辺聖子といえば、生粋の大阪人。大阪を舞台にした優れた小説を多く書いており、「ジョゼ〜」も大阪の下町が舞台となっています。田辺聖子やあるいは宮本輝の描く、「あっけらかんとあけすけで、人情味があるんけどどこか突き放したようにドライで、淀川みたいにきれいなものも汚いものも、全部大きく飲み込んで、のたりのたりと流れてゆく惰性」といった大阪のありよう。同じ関西人としては、そこが変にしゃらくさくてはどうにもやっとれん、というその空気感。それを、この映画はなかなか好ましく描いていると思います。

都会的にど直球に爽やかでハンサムな妻夫木聡を主役に起用しているにも関わらず、この映画にそこはかとなく流れるハードボイルドな感覚というものが私は好きです。

監督の犬童一心氏は東京の人なのに、いかにして。と興味深かったのですが、脚本の渡辺あや氏は阪神間の人ですし、そもそも私が大阪を描いた映画の中で最も心に残っている一本、市川準監督の「大阪物語」という作品があるのですが、犬童監督はこの作品の脚本家でもあったということで、なるほどと腑に落ちました。

「大阪物語」は大阪の芸人の世界を描いた作品で、田中裕子と沢田研二という実際の夫婦が夫婦役を演じていて、それがものすごく凄みがあって素晴らしいのですけれど、非常に博打っぽくヤクザな怖い大阪の芸事の世界、その薄暗さと泥臭さといった空気感に何より惹き付けられるのです。それに通じる空気を「ジョゼ〜」はたしかに持っていると思います。

様々な要素の心地よい調和

撮影も良かったです。必要以上にムードを出すことにかまけていないけれど、時々差し挟まれる実景が、心象風景として映画ととてもマッチしていて、じんわりといいです。きたないのにきれいで、乾いているのに温かみがある。

原作が本当に短いものですので、どういう風に膨らませているものか、個人的な興味もあって脚本も読み込んでみたのですが、極限まで引き算をする、そしてファンタジックな味付けをしている犬童監督の演出に感心することになりました。一体、映画の2時間というのは実に短くって、意味のないシーンを挿入する余裕などないのだなあと思います。

その上で、やはり映画の醍醐味は感情のうねりのようなものがスムースに流れて行くこと、人物の心の動きを丁寧に追い、ある高みに至るまでの感情の布石をきちんと敷いてゆくことで、ここをヴィヴィッドに描けている映画が、多くの人々が心動かされる作品なんだろうなと思います。

このように、この作品が素晴らしいのは、色んな要素が心地よく噛み合っているからだと思います。くるりの音楽も素晴らしい。

魅力的なキャストたち

そして役者たちもすごくしっくり来ていて好ましいです。主演の池脇千鶴は、強いのにもろいジョゼを魅力的に演じたと思います。へんちくりんな女の子なのに、嫌味なく見る人をひかせることなく、というのは、なかなかにすごい技量だと思うのです。(近作の「海月姫」では・・・・でしたけどね)彼女は「大阪物語」でも主演の少女を演じていて、だからの起用なんだな、というところもありますね。

妻夫木聡は、原作のイメージよりも随分スマートです。王子様です。けれど、個人的に思うに、彼は今の日本の若手俳優の中では最も魅力のある役者さんのひとりだと思います。それは演技が上手い下手とかというよりは、「持ってるか持ってないか」という話で、彼が画面にいることで、作品がひとつぐっと「上がる」ものがある、というかんじがあるのですよね、上手く書けないのですが。ある種の人はスターであり、ある種の人はどうあがいてもそうではない。それは好むと好まざるとに関わらないことのように私には思えます。

そういう訳で、原作の煮え切らないもっとだめな感じの恒夫よりも、随分爽やかな恒夫で、原作の惰性のどろんとした味わいのようなものは不可避的に少なくなりましたが、青春のせつなさや葛藤というものが引き立つ結果になったと思います。「男の子」の素敵さを体現したような、まぶしいような若き日の妻夫木聡の存在感、とても切なくて、私はこれはこれで好きです。

この映画は脇役もすごく良いです。良い映画って、後のスターが沢山端役で出ているのも特徴ですね。

圧巻のおばあはんは新家英子。彼女がいることで、しゃらくささのようなものはあらかた吹き飛んでしまうというような、パンチ力があります。新家英子は、関西の演劇界の重鎮のような存在です。

ジョゼの幼なじみの幸治を演じた新井浩文は、今ではひっぱりだこの性格俳優になっていますが、この映画では荒削りで本当にチャーミングです。個人的にこの演技はすごく好きです。

また、荒川良々に板尾創路、駆け出しの上野樹里も端役で出ている。色んな意味で適材適所、調和が実に心地よい、それでいてさりげない作品です。

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