野々宮喜和子と秋山恵津子
犯人である野々宮希和子
生後2か月~4歳まで誘拐した「恵理菜」を自分に子どもにつけるつもりであった「薫」と名前を付けて一緒に暮らしていました。希和子は不倫相手でおろした子どもの父親でもある秋山丈博と奥さんの間にできた子どもの顔を見たとたん、自分のおろしてしまった子どもの生まれ変わりと思ってしまったのでしょうか、泣いていた「恵理菜」を抱き上げて連れ去ってしまいました。
希和子は薫をとても大切に育てていました。2人で暮らせることをいつも第一に考えていたように思えます。その愛情のかけ方はきっと本当の親子にしか思えないほどだったのでしょう。訪れた先で2人を助けてくれる人がいつもいました。「3つ子の魂百まで」といいますが、ちょうどその時期にしあわせな時間を一緒に過ごした2人だったので、希和子を本当の母親だと思ってしまっても不思議なことではなかったのでしょう。捕まった時希和子は一緒に過ごせた4年間に感謝しますと言っていました。希和子にとっては本当に幸せな4年間だったのでしょう。裁判官の「謝罪しますではないのですか」という言葉に希和子の気持ちとのギャップが感じられました。
被害者である秋山 恵津子
やっと取り戻したわが子ですが、自分を母親として受け入れてくれない恵理菜に対しやりきれない思いで苦しみます。わが子を誘拐された4年間も苦しみましたが、もどってきてからもその苦しみは癒えることはなかったようです。恵理菜はいつまでも母親は希和子だと思っていて、何度も交番に誘拐されたといっては駆け込んでいました。
恵理菜に好かれたい一緒にいたい、本当の母親だと認めてほしいという気持ちとは裏腹に、一緒にいればいるほど希和子の存在が大きく、嫉妬心が大きくなる一方だったように思えます。どこまでいっても自分を本当の母だと認めてもらっていない気持ちが消えず、恵理菜を愛しているのにどう接したらそれが伝わるのかわからずあがき続けていました。
「薫」と「恵理菜」
薫の頃の記憶はほとんどなかったのですが、誘拐されていたことは週刊誌などで知っていたようです。それでも記憶のどこかに希和子との思い出があるのか、本当の親子であるにもかかわらずどこか他人の家に暮らしている気がしていました。本当の母親が苦しんでいるのはすべて自分が悪いせいだと思っていて、近くにいると事件のことを思い出して苦しむため、自分は母と一緒にいない方が、母が苦しまなくてすむのではないかと思い距離をおいているようでした。
エンジェル時代一緒に過ごしたマロンとの再会で、誘拐されていた4年間の軌跡を追うことになります。当時関係のあったその場所には自分を知る人はもういませんでしたが、少しずつ希和子との楽しかった思い出がよみがえります。そして親の愛を知らずに育ってきたと思っていましたが、誘拐されていた4年の間にたっぷり愛情を注がれて育っていたことを知り感じることができました。
「育ての母」と「産みの母」
一見すると「育ての母」との方が子どもが幸せだったのではないかと思ってしまう作品です。映画のつくりも、カギを開けたまま赤ちゃん一人をおいてどこかに外出する夫婦から、子どもを一目見ようと家に入った「育ての母」となる犯人に泣いていた子が泣き止み、連れ去られても仕方がないような雰囲気をかもし出し「産みの母」の子どもをあまり大切にしていないような様子が描写されているように思われます。そのままずっと「育ての母」に育てられた方が幸せだったのではないかと思わせてしまいます。でもこれでは誘拐しても大事に育てれば、子どもからは許されるというふうに解釈されるのではないかという危険があります。
でもこの作品で言いたいのはどちらが優れていて、どちらが劣っているということではないように思えます。なぜなら子どもを愛する気持ちはどちらも優劣をつけることができないくらいだと思うので・・・。子どもに対しストレートに愛情を注いでいる犯人ですが、結局のところ犯人のその身勝手で「産みの母」が翻弄されるといった見方のできる作品だと思えます。自分は4年間の幸せな時を過ごしていますが、「産みの母」はその4年間だけでなく戻ってきた後も苦しんでいます。そんなに子どもが欲しければまた産めばいいとまで言う人もいるようです。希和子のせいでうちの家庭はめちゃくちゃになったという「産みの母」の気持ちもよくわかります。
恵理菜は自分の妊娠を両親に告げるとき、「産みの母親」の自分に対する葛藤を見ることができました。「好かれたい」と「好かれるために努力しても報われない」という気持ちを「産みの母」から聞くことができました。それによって「産みの母」がどれほど自分のことを不器用なりに愛していたということが分かってよかったと思えます。しかし、鍵もかけずに赤やんをおいていったことに対する戒めも含まれているのではないでしょうか。
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