現在にも通じるSF作品を堪能
目次
タイムトラベルの面白さがギュッと詰まっている
筒井康隆氏が書き上げたSF小説、1965年に連載が開始されました。
今から、50年前に描いた作品とは思えないほどの斬新なストーリーで描かれ、タイムトラベルというテーマの中で、未来人が登場する斬新なストーリー展開となっています。主人公の和子が、時間を超えて過去に戻ってしまうタイムトラベルに対して、最初は飲み込めませんが、徐々に物語の世界へ引き込まれていきます。その中で、考えさせられたのが、過去に戻った時には、何を目安に過去を知るのだろうかと言う事です。和子は、自分のノートを見て、今の日付を確認していきます。不思議な物で、時間が過ぎるのは目に見えません。確認できるのは、生きている物だけなのだと、時間の流れの不思議さを感じさせます。
物語の中で理科室にいた人物が誰だったのか?が、読者には気になる所ですが、その方法として、過去に戻って誰が来るのかを確認する方法をとります。和子ならできる事ですが、誰しも過去に戻ってやり直したい事、確かめてみたい事はあるのではないでしょうか?そんな欲求を和子が満たしてくれます。
テレビや映画などの分野でも、幅広く使われている「時をかける少女」は50年たった今でも、映像化され語り継がれる物語となっています。
昔あった出来事と感じるデジャヴ
自分の中で、この場面は昔体験したような気がするというデジャブな体験を誰しもしたことがあるのではないでしょうか?「時をかける少女」では、あの不思議な感覚が一体なんだったのか?という疑問に答えてくれています。頭では、割り切れない不思議な出来事が世の中にはいくつもありますが、現実として認められていません。時間という観念と、場所というあたり前にある観念を、タイムトラベルと瞬間移動いう形で、壊してくれます。今は、あたり前のようにあるSF作品の先駆けとなった作品です。
時間の中に同時に存在しない
「時をかける少女」の中では、空間や時間など、いろいろな事を考えさせられますが、過去に戻った場合に、そこにいた自分は同時に存在しないという定義で描かれています。タイムトラベルを描く時に、過去に帰ったら、未来に行ったら自分がいるのか?いないのか?は、一番の問題なのかも知れません。「時をかける少女」では、その問題を解決しています。もしも、同じ自分が存在してしまったら、また違ったストーリーになるかもしれません。
恋愛観がちょっと違う
今から50年も前に、描かれたものですので、男女の恋愛観が今と少し違います。レトロな雰囲気のなか、和子と一夫の恋愛も描かれていますが、まるで昔の映画を見ているような雰囲気で、その2人の恋愛感情が全く伝わってきませんでした。
一夫と和子は、最後別れなくてはいけなくなる訳ですから、恋愛感情は欠かせません。しかし、物語はタイムトラベルと時間の関係を描くことに駆使しており、2人の感情を上手く表現できていないのではないでしょうか?ですから、一夫が和子の事を好きだと告白しても、納得できず、その告白で和子も実は一夫が大好きだったと、突然盛り上がる場面にも疑問が残りました。一夫の感情は、話の流れで後から付けたかも?と感じます。
台詞が昔っぽく、文章の流れがイマイチ
正直、台詞の言い回しが、現在の若者の話し言葉と違うので違和感を覚えます。この小説が、今から50年も前に執筆したものなので、仕方ないですが、その台詞のせいでリアルな会話として感じられない箇所が度々出てきます。例えば「まあ、どうしたのかしら?」「どうするんだい」などは、あまり現代では使われていないよう気がします。特に、女性の台詞は、男性が考え付くような言い回しみたいです。
文章や文体は、滑らかな文章と言えず読んでいて、気持ちよく読むことができませんでした。ムダな所で打っている句読点が気になります。
現代でも映像化され続けている
「時をかける少女」はテレビやアニメ、ドラマなどで数多く映像化されています。どちらかというと、映像化されている作品の方が「時をかける少女」を余すところなく表現し、みるものの気持ちを掴んでいると言えます。言葉では表現できないタイムトラベルを映像で表現する事で、見るものをくぎ付けにし、本では表現が乏しかった2人の恋愛感情を上手く描くことができるからです。SF作品の代表作とも言えるこの作品は、短編ながらもさらなる可能性を与えてくれた作品、これからもいろいろな人に、何かを考えさせてくれる糊代をたくさん残してくれたと思います。
他の2作も面白い
こちらの本には、「時をかける少女」以外にも「悪夢の真相」と「果てしなき多元宇宙」がはいっています。「悪夢の真相」は、心理的な深層心理の世界を描き、もしかしたら誰にでも起こりえる物語です。自分の犯した罪を忘れてしまったとしても、心はどこかで覚えているのかも知れません。特に、子供の深層心理には、架空の出来事を作ったり、無くしたりする能力があるように感じさせる作品です。
「果てしなき多元宇宙」のような考えは、怖くて薄気味悪くなる物語ですが、今もSF作品として描かれ続けています。
現代では、飽きられてワンパターンとなってしまったSFですが、これらの作品にはSF初期の初々しさと勢いがあります。
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