ロートレック荘事件の評価
ロートレック荘事件の感想
『ロートレック荘事件』、叙述トリックを成功させるための仕掛けを読み解く
一人称に隠されたもう一人の登場人物『ロートレック荘事件』は叙述トリックを用いたミステリである。叙述トリックとしてはありがちな一人称での語り手が犯人であるという手法を使っているとはいえ、この小説には独特のオリジナリティがある。それは登場人物の一人である浜口修の存在がラストに至るまで徹底して隠されていたことである。読み手は浜口修と犯人の浜口重樹を同一の人物として認識しているが故、最後まで重樹が犯人であることに確信が持てない。確かに一人称での語りは読者をミスリードするのに適しているとはいえ、物語のラストに至るまでもう一人の登場人物を隠し通すのは並大抵のことではない。そんな筒井康隆の文章の技を検討してみたい。仕組まれた友人「工藤忠明」この物語には障害を持つ主人公重樹を支える友人として、大学の同級生工藤忠明が登場する。彼こそは読者をミスリードする最大のキーキャラクターである。この工藤の立ち位置は...この感想を読む
不出来な仕掛け
読んでいると最初の法で、ネタがわかってしまい楽しめなかったという人が多いのでは無いのだろうか。どうも肝心のネタ一本を使うがためだけに、小説を一本作ったという感覚がある。その肝心のネタって言うのが、書かれた1990年当時はもちろん、今となっては、さもありなんという具合のもので、筒井なのだからそれ以上のものがあるのだろうと期待していると、いささか拍子抜けする。もちろん文章力や人物背景なんかはさすがに一流と言ったところで、十分に読める小説ではあるのだけれど、逆にそこが惜しい感じになってしまっているように思えた。ロートレックの事を知っている人は、題名からしてぴんと来てしまうと思った。