罪の重さに比例する「贖罪」だったのだろうか? - 贖罪の感想

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贖罪

3.773.77
文章力
3.83
ストーリー
3.83
キャラクター
3.83
設定
3.73
演出
4.17
感想数
3
読んだ人
5

罪の重さに比例する「贖罪」だったのだろうか?

3.33.3
文章力
3.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.0
設定
3.2
演出
3.5

目次

最後まで犯人がわからない緊張感

「贖罪」は、湊かなえによる3作目の作品。デビュー作の「告白」と同じように登場人物の台詞で物語が進行していく。第63回日本推理作家協会賞長編及び、連作短編編集部門の候補作となった作品です。作者である湊かなえは、ラジオドラマの脚本大賞で受賞した事もあり、台詞形式で進んで行く少し変わった小説となっています。

当初、犯人はわからないものと思って読み進めて行くと、意外な展開から犯人像が浮かび上がっています。それは、子供たちを憎み殺人者とののしっていた、エリカの母親に関係する人物でした。これを最後まで、わからない状態描いているので、ぐいぐいと物語の中にひきこまれます。台詞での語り口調となっていますので、文章が苦手と感じる方におすすめです。

犯人は母に恨みを持った人物、つまり母親のかつての交際相手、しかもエリカの父親だったのです。エリカの父親だったという事から、さらなる悲劇となり幕を下ろすのです。少女殺しの残虐な事件が、過去から蘇り、目撃した4人の少女へ受け継ぎ、未来へと続いていく因果な関係は贖罪というタイトルにピッタリと当てはまっています。


台詞で進めて行く物語

この小説は、普通の文章ではなく人の独白、台詞で物語が繰り広げられています。湊かなえのデビュー作となった「告白」と似た形式だと言えるでしょう。しかし「告白」には、及ばないと思います。人の台詞で全てを描写するというのは、無理があるように思うのです。だから、次々と登場人物に話をさせているのでしょうが、なぜか4人の少女が、読んでいるうちに入り混じってしまい、個性を感じる事ができません。

その原因としては、同じ時代の少女が5人登場する事にあると思います。同じ世代の子供をかき分けるには、相当な描写の旨さを持たなくては難しいのではないのでしょうか?個性を付けるために、少女1人1人を変わったキャラクターに仕上げていますが、それにも無理があり、肉づけが旨く行っておらず1人の人間として、描ききれていないのです。例えば、クマみたいなといってもどういう人物なのか全く想像付きません。その癖足が速いなんて、合わないと思います。描いた人物が、感じとることができない、画面として浮かんでこないのが、この小説の欠点のように思いました。


設定に無理を感じる

死んだエミリを発見した少女達と、エミリの母親である麻子、その間で組み交わされた約束によって、人生の歯車が狂い、少女達は大人になって15年後に殺人を起こす訳ですが、あまりにも強引な設定に無理があるような気がします。少女達のそれぞれの人生が、過去の出来事を引きずり、負の連鎖を生み出し本当に殺人を犯してしまうのでしょうか?そのような事件があれば、忘れよう遠ざかろうとする気持ちが自然に働くのではないかと思うのです。

そして、麻子が4人を呼び付けて殺人者だといい、償いをしろというのも、あまりにも唐突過ぎて、驚きますが共感できる部分がありません。麻子が、そう言い放つだけの気持ちの流れが充分に描かれていないように思えます。麻子の気が狂ってもいない、取り乱すにはあまりにも年月がかかっている。などの点も否めません。


麻子が背負った贖罪

この物語の中で、一番の贖罪を背負ったのは麻子でした。一番耐えがたいのは、自分自身が傷つく事ではなく、愛する者が殺され失う事だと思い知らされます。しかも、父親が自分の娘を殺してしまうのですから、その贖罪の大きさは計り知れないのです。

ただし、麻子はそれほどの罪を犯していたのか?と疑問も感じています。麻子は、とても嫌な女で、人の男を平気で自分の物にしてしまう女ですが、それほどの罪を犯していたのでしょうか?2人の愛が強かったのなら、麻子という障害をも乗り越えて一緒になっていたのではないと思います。

自分が男から身を引いて、悲しみ自殺をする事は、すべて麻子が悪かったのか、麻子の子供を殺すまでの罪だったのかと、疑問を感じてしまいます。私は、そこまでの罪とは思えませんでした。麻子一人に、原因を押しつけられないと思います。


読みにくい描き方がイマイチ

人によって感じ方は様々だと思いますが、私には「贖罪」の文章が読みにくく、良質な描き方だとは感じられませんでした。話し言葉で語るために、どれも抽出な話し言葉にしか思えてならないのです。台詞は物語の核となる大切な部分です。登場人物、主人公の思いがギュッと凝縮されて欲しい部分だと思うのですが、全てが台詞という文章になっているために、台詞としての大切な役割が失われているような気がします。脚本家を目指していたと言われる湊かなえ氏らしさなのかも知れませんが、台詞ならではの持ち味が、無くなっているように感じました。

この「贖罪」という物語は、好みによって好き嫌いが別れる作品だと思います。読んでいて、感動する訳でもなく、できれば早く忘れてしまいたい作品です。私は、間隔を開けて2回読みましたが、2回目なのに作品を思い出す事ができませんでした。


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