家族が同じ船に乗っていさえすれば、一緒に正しい道に戻ることも可能です。
浪矢雄治
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『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は2011年に雑誌「小説野性時代」に掲載され、2012年に角川書店より単行本が出版された東野圭吾のファンタジー小説である。第7回中央公論文芸賞受賞作品であり、2013年には演劇集団キャラメルボックスによって舞台化され東京・神戸で公演された。 同じ養護施設で育った3人の少年が悪事を働き、空き家になっていた「浪矢雑貨店」に逃げ込んだことからこの物語は始まる。そこはかつて店主が様々な人の悩みの相談に乗り、話題となっていた雑貨店だった。深夜、既に廃屋となっているはずの店内のシャッターの郵便口に白い封筒が投げ込まれ、中身を見ると不思議なことにその手紙は悩み相談のために店主に宛てたものだった。3人は不審に思いながらも手紙を読み、店主に代わって返事を書くことにしたのだが、手紙をやりとりしているうちに3人はこの相談者が過去の人間であるということに気付く。過去と今とが不思議に交錯しつつ、3人を含めた様々なつながりを明らかにするようにストーリーが展開していく。
「奇跡」ではなくて、「奇蹟」を使っているところがいいですね。タイトルから、想像するに、小さなふるーい雑貨屋の話かと思っていました。でも内容はまったく違いました。十数年の時をまたにかける時空のファンタジーでした。赤いポストから入れた人々の相談に対して、なぜか牛乳箱から返事が返ってきます。話が飛んだりして、ボク的にはわかりにくい場面もありましたが、面白い作品でした。この作品を読んでいて、「真剣に怒ってくれる人って大事だなー」と感じました。なんかホンワカしました。自分ならまっさらな地図に何を書くのか。想像しただけでもワクワクします。「なんのことかわからない」って?読んでみたら、わかると思います。
ナミヤ雑貨店、という店名自体がもう奇跡の始まりなのだろうと思います。あ、奇蹟か。こういう店名じゃなければ、浪矢氏も悩み相談を受けることはなかったのでしょうし。本作ではちょっと特殊な相談方法・回答方法とはいえ、悩みは誰しもあるものであって。できれば解決に向かいたいものですよね。SFというかファンタジーの要素が入りつつも、こうして顔が見えないけれどその悩みやメッセージのやり取りをしているのは、現代で言うところのネットの掲示板などに少し通じるものがあるような気がします。で、そのSFの要素が、この作品をガンガン読み進めたくさせるのです。出てくる人物たちの人生は様々。絶対誰とも関わってない人なんていない。そんな関係性も、読んでいて楽しいポイントの一つです。面白い小説読んだー! って読後感。幸せです。
夏に帰省していた、ロンドンオリンピックの直前に、この小説を読みました。オリンピック開会式にポールマッカートニーが登場した時には、このストーリーの感動がよみがえってきました。作者、東野圭吾は、出版の時期を計算してこの話を描いたのでしょうか?このストーリーには時空を超えたファンタジーが存在します。オリンピックを目指す者、ミュージシャンを目指す者、人は様々なものを目指し努力をしますが、その目指す思いが強ければ強いほど、壁にぶち当たった時の苦しみも大きいものです。人は悩みながらも生きなくてはいけない、一生懸命生きなければならない、そして一人で生きているのではない、そんなことを前向きに認識できるストーリーになっています。東日本大震災で、閉塞感を抱いている中、この小説は、生きることの尊さを示しいるように思いました。
浪矢雄治
商売が右肩上がりで羽振りの良かった両親とともに、その息子・浩介も贅沢をさせてもらっていた。しかし70年代にさしかかり、父親が経営する会社の商売は悪化。挙句夜逃げを決行すると両親から告げられた。ついていくべきか深く悩んだ浩介は、ナミヤの爺さんに手紙を書く。 名言はその返事のうちの一文。