浦沢直樹は天才なのか? 20世紀少年の考察 - 20世紀少年の感想

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20世紀少年

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
5.00
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浦沢直樹は天才なのか? 20世紀少年の考察

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
5.0

目次

狭から広へ 『20世紀少年』の構成力の高さ

浦沢直樹は天才か。大げさではなく、『20世紀少年』を読了したあと、そう考えてしまった。

『20世紀少年』のテーマは、「狭から広へ」に尽きる。

主人公はコンビニ店長のケンヂ。仲間は近所の幼馴染。やがて”ともだち”に対抗するレジスタンスたちなど、増えていく同志。

目的は身近な人を守ることから、世界の平和の奪還へ。

テーマは(広義では)愛と平和。その根幹にあったのは、少年時代の後悔、そしていじめへの反対。

狭から広へのストーリー展開。誰の手元にもあるものが、良くも悪くも広いモノへと育っていく。

浦沢直樹はやっぱり天才だな、とここまで書いて唸ってしまった。

浦沢直樹は、創作者として必要な資質を持っている。もしこれが狙ってやったにしろ、偶然にしろ、とてつもない才能だ。そしておそらく、偶然ではない。それは浦沢直樹の著作が数々のヒットを飛ばしていることに証明される。

映画さながらのストーリー展開。誰もが熱くなれるシーンの数々。『20世紀少年』が映画になってなお、評価された根幹が、漫画の段階で溢れている。次項ではそれを解説していきたい。

カッコ悪くてカッコ良いキャラクターの数々

まず、『20世紀少年』のキャラクターの魅力について語らなくてはならないだろう。

先に言っておきたいが、『20世紀少年』に特別なイケメンも美女のキャラクターもいない。超人もいないし、ハーレムを形成するような平凡な少年もいない。いるのはそこらへんにいる、おっさんおばさんだけである。

そのおっさんおばさんが、『20世紀少年』では悪と立ち向かう。それが最高にカッコいい。

特別な技能もないし、爆発物に対する知識がある訳でもないおじさんたちが、自分の出来るだけの能力と人間関係を駆使して、長い時間をーーそれこそ人生まるごとーー懸けて、巨悪に立ち向かう。それがどうしようもなくシビれるのだ。

浦沢直樹を天才だと称したくなるのは、まさしくそこである。創作者たるもの、自分の作ったキャラクターにはいい目を見てもらいたいし、愛着も湧くから大事に扱いたい。だが、浦沢直樹はそこをあくまで冷徹な原作者の立ち位置として物語を紡ぐ。平気で困難をぶつけるし、ひどい目に合わせる。キャラクターたちは時に絶望に屈しながらも、仲間との絆や己の過去(なんてかっこいい例えは本当は使いたくない。だって『20世紀少年』はあくまで平凡な人が主役の漫画だから)を糧に立ち上がり、困難を乗り越えていく。

オッチョなんかは超人の域に達している気もするけれど、主人公のケンヂはどこまでも人間臭い。ギターを弾き続けていただけ。論破もしないし、説得もしない。主人公でありながら作中、たいして精神的に成長しないのも特徴といえるだろうか。彼は達観しただけだ。達観したことで存在感が増し、やがてヒーローになった。

特に、アメリカに逃亡したケロヨンなどは浦沢直樹の才能が光るキャラクターといえるだろう。ケンヂたちの目的を知りながら、逃亡したケロヨンは、自らを”最低”と思いながら漠然とした日々を生きる。そして最終的には、世界の人々を救うために動き出す。それぞれのキャラクターが自らの出来る範囲で努力する。これが 『20世紀少年』の魅力である。

全く、自分のボキャブラリーの少なさに呆れ果てるばかりだが、繰り返して言いたい。

『20世紀少年』のキャラクターは、どこまでもカッコいい、と。

誰もが主役たる 『20世紀少年』  その結末

『20世紀少年』 の登場人物は多い。だが、浦沢直樹はそれぞれにきちんと結末をつけて完結させた。味方、敵、誰もが平等に扱われ、きっちりとしたオチが作中で描かれている。これも 『20世紀少年』 が高い評価を受けた理由であろう。

特に幼少期のいじめっ子であったヤン坊・マー坊が後半、味方になったエピソードや、学生時代いじめられたせいでトラウマを持っていたが、最期にはケンヂたちのグループに受け入れられ安らかに逝ったサダキヨのエピソードなどは、読んだ人ならば誰もが胸が熱くなる話ばかりだ。

ケンヂたち主役だけでなく、ちょっとした脇役まで手間を惜しまず結末を描いた。これは決して誰にも出来ることではない。

全てのキャラクターに結末をつけるということは、物語が全て綺麗に完結することを意味する。個々のキャラクターだけでなく、 『20世紀少年』 は、物語もほぼ全ての伏線が回収され、大団円を迎える。この辺りは、『21世紀少年』にも詳しい。

カンナは叔父と再会し、生き別れた母とも再会する。ケンヂはシュミレーターで過去へ遡り、ウルトラバッチのために万引きし、ともだちに罪をなすりつけた過去を清算する。

もちろん、ケンヂがシミュレーターでともだちに謝罪したところで、流れた時間や死んだ命は決して帰らない。だが、読者はわずかに寂しさを孕んだ清涼感を覚えたはずだ。

これが、『20世紀少年』の完璧な結末なのだ、と。そして、良き漫画を読了出来たことに、わずかな寂しさを覚えつつ、本を閉じるのだろう。

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