幸か不幸か、時間を持つ男たちの物語
8つの短編からなる作品私が読んだ吉村昭の中では最も現実的と言ってもいい物語かもしれない。この本には「星への旅」のような現実から遠のいたような静かさはなく、「羆」のように暗いものでもない。共通するテーマは、主人公たちが定年退職などで時間をもて余しているということだ。何十年も勤めて定年を迎えると、想像ではこれから会社に行かなくてもいいのだし自由に時間を使えるとわくわくしてしまうような気がするけれど、男性と女性の違いなのかここででてくる男たちは一様に時間をもてあまし、どうやって暇をやりすごすかということに日々強迫観念めいたものを感じている。そういった生活の中での一つの出来事がズームされて描かれている。いくつかの話の主人公は妻を先に亡くしているので、その毎日をどう過ごしていいかわからないところに孤独感までプラスされてくる。今まで仕事で忙殺されていたところの時間がなくなった分、その淋しさがまとも...この感想を読む
3.53.5
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