難解な医学書のような作品
専門書のような文章と用語吉村昭は「星への旅」などしんしんとした静かさを湛えた文章が衝撃的で、時々読む。他にも「漂流」は恐らく膨大な取材のもとで書かれたであろう緻密な描写が素晴らしく、サバイバルの厳しさに手に汗を握る秀作だったし、「羆」は短編でありながら救いようのない暗さを書き上げたもので幾度か読み返したものだった。それに比べて今回の「神々の沈黙」は心臓移植をテーマにしたもので、作品中は終始ドキュメンタリー調で余計な装飾などなく、ただ事実のみを書くことに専念しているように感じられる。使われる言葉は専門的なものが多く(血圧でさえそのような専門用語のようなものだった)、一見かなり読みにくい作品だったことは否めない。にもかかわらず、最後まで読んでしまったのはその事実に興味深いものが多く、患者と臓器提供者の心理描写だけでなく医療者側の背景や気持ちが詳しく描写されており、彼らに感情移入してしまった...この感想を読む
4.04.0
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