河童の評価
河童の感想
機知と風刺と諧謔と冷笑を華麗に駆使する、芥川龍之介の晩年の問題作「河童」
芥川龍之介の小説は、意識的に計算された緻密な構成と、効果的に選択された独自の文体を持つ作家で、どの作品を読んでも、すみずみまでその効果を計算され尽くした、知的な操作による創作の方法は、初期であろうと晩年であろうと、終始一貫していたと思います。舞台と人物との選択は、時間的空間的に奔放自在を極めています。古今を問わず、東西に渡っており、王朝期あり、江戸期あり、開化期あり、大石内蔵助あり、滝沢馬琴あり、松尾芭蕉あり、鼠小僧次郎吉あり、スサノオノミコトあり、ツルゲーネフあり、トルストイあり、盗人あり、殺人者あり、姫君あり、-----と多種多様です。文体もまた、客観描写体、独白体、書簡体、談話体、問答体など、ありとあらゆる種類を駆使し、あるいは、欧文調、漢文調、南蛮語調、翻訳調、談話調など、時により、場合に応じて、正に変幻自在の妙を尽くしながら、しかも、歴然とした芥川独自の文体を創り出しています。しか...この感想を読む
河童の国に迷い込んだ人の話
とある精神病院の患者、第二十三号が誰にでも喋る、河童の国に迷い込んだときの話です。人間と同様の高い文明の中で生活しながらも、人間の真面目は河童の滑稽、人間の滑稽は河童の真面目、雌の河童が雄の河童を追いかける(これは現代では正反対ではないかも)という、正反対の文化を持っています。しかしそんな河童の世界を当たり前に存在する世界のように描き、どこか人間の世界の方が不合理なのではないかと思わせるような不安な読後感に包まれます。芥川がその精神にどんな病を抱えていたのか、実は何もそんなものは抱えておらず、ただ人間社会に彼の精神が適応できなかっただけなのか、これを読んでいると、何か考えさせられるものがあります。こんな河童の世界になら、住んでみたいと思わないこともありませんし。