小谷野敦の「母子寮前」は、いつか来る日のための珠玉の一冊
「母子寮前」は、癌になった母が病名を宣告され、死ぬまでを、著者の小谷野敦を思わせる「私」の視点で描いた作品だ。これは小説と言いながらも、ノンフィクションなのだろうと思った。著者の感情に呑み込まれ、泣いてしまうだろうなあ、と思っていた。「私」は、母の死を目の前にして感情が揺さぶられ、動揺し、思い悩んでいるのだが、文章自体はそうでもなく、それらを感じさせないように抑制しているように感じた。少し離れた地点から、我が身を見て、それを描いているような感覚があったから、冷静に読める。それでも、やはり母の死は悲しい。「私」は、苦悩の毎日だ。医者に宣告された時の心情をこう描いている。「私の最大の味方である母をも失うのか」。本を書けば、ちゃんと読んでくれる。テレビやラジオに出演したら、視聴してくれる。鬱病を患った時も、看病に来てくれる。引っ越しの手伝いにも来てくれる。子供にとって、母は一番の、そして、も...下書きを編集
4.54.5