東京奇譚集の評価
東京奇譚集の感想
なにであれそれが見つかりそうな小説
過去に彼に起こったいくつかの出来事、という始まり方この本には5つの短編が収められている。その一番初めの「偶然の旅人」の冒頭部分で、作者村上春樹がこう述べている。「過去にいくつか自分に起こった不思議な出来事を綴ってみたい」としている。だからこの本の全ては村上春樹が体験した不思議な出来事を文章にしたとずっとそう思っていたのだけど、最近読み直してみてそれは違うのではないかという気持ちになった。一番それが顕著なのが「品川猿」だろう。色々考えた挙句、恐らく彼が体験したのは一番初めの「偶然の旅人」だけなのではという結果になった。多分それが正解なのかもしれないけど、そう考えると随分自分が分別たらしいみすぼらしい中年に成り果てたと感じてしまったものである。とはいえ、実際彼の身に起ころうと起こるまいと、架空であろうとそうでなかろうと、ここに収められている物語全ては愛すべきものであり、時々読み直したくなる...この感想を読む
軽く読めて面白かった
さすが村上春樹さん。本書はまったく雰囲気の異なるショートストーリーがまとめられていて、楽しく読めました。不可思議だけど、読んでいて心温まるお話に好感が持てました。日常的に存在するものが突然喪失した時、人はどの様に受け入れてゆくことになるのであろうか?さすが村上春樹さんです。つい引き込まれてしまいます。受け取り方によっては救いの無い残酷なものも感じます。不思議な物語を、作者独特の淡々とした文章で綴られていて面白かったです。自分の周りでも聞いたことがある程度の不思議から、かなり不思議な物語まで、少しずつスライドしていくのも面白かったです。奇妙ながらも心の温まる作品。
ハルキストの一人です!
突然起こった人生における大切なものを奪われる出来事に、戸惑う人々が遭遇した不思議な運命を綴る短編集。印象深かったのが、ハナレイ・ベイや日々移動する腎臓のかたちをした石。ハナレイ・ベイでは、レストランのピアノ弾きの女性が、ひとり息子がハワイで鮫に襲われて死亡したため、遺体を引き取りに行く話で、突然死んだ息子に当惑する女性を描いていて面白いです。日々移動する腎臓のかたちをした石は、作家の男性が結婚後付き合っている女性と別れてから、本当に意味を持つ2人目の女性だと気づいた話を、腎臓石を置物としている不倫中の女医に照らし合わせながら、描いている秀作です。病気療養しながら読むには、癒しの効果が強くておすすめの1冊です。