良くも悪くも軽い小説 - 東京島の感想

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東京島

2.672.67
文章力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
2.50
設定
2.83
演出
2.67
感想数
3
読んだ人
4

良くも悪くも軽い小説

1.51.5
文章力
1.5
ストーリー
2.0
キャラクター
1.0
設定
2.0
演出
1.0

目次

全く好きになれない主人公

この小説はある無人島に辿り着いた人々の生活を描いているのだが、その漂流者の中でただ一人の女性が主人公となっている。もちろんこのモデルはアナタハン島事件と思われるが、グロテスクながらも興味深いこの事件に比べこの小説は実にあっさりと描かれているように感じる。主人公の清子と夫の隆は漂着してから既に5年経過している。島にいるのは、その間与那国島からバイト辛さに脱出してきた若者23人、中国人マフィアかなにかに島に捨てられた中国人11人。事故や発狂で人は減ったりしながら、その後、フィリピンのダンサーたち7人が流れ着いてくるのだけど、その全ての登場人物がまったく好きになれなかった。これは面白くないと感じる小説や映画でよくあることで、登場人物たちが好きになれないとまず話にのめりこむことができないし、ストーリー自体に魅力を感じることができない。後半にフィリピンダンサーたちが流れついてくるまで唯一の女性だった清子にしても、主人公の割りにまったく魅力がない。既に46歳(この設定の必要性もよくわからないが)の彼女が熱烈に男性に求められるのはこの特殊な環境のためだろうことは本人もよくわかっていると思うけれど、それならなぜそこにあぐらをかけるのか分からない。3番目の夫のユタカには少し優しい態度を見せたりもするけど、それでもヤンたちに脱出計画を知らされたらあっさり彼を捨てている。彼女の全てが自己中心的な憐憫と満足と言い訳と満たされており、それでありながら人の力を最大限に利用するその態度がどうにもさもしい。別にこういう性格の人間がすべて魅力のないものではないと思う。映画でもマンガでも小説でもそういった人物でありながらなぜか憎めないというような登場人物はよくある。なのにこの清子に対しては例えどんな苦境におかれようと、まったく感情移入もしなかったし同情もできなかった。

30人以上の分かりにくい登場人物

若者が20人以上、中国人が10人以上、最終的にはフィリピンのダンサー7人が流れつく大所帯になるのだけど、その書き分けが見事に分かりにくい。ただでさえ登場人物が多いのにキャラクターがたっていないため、めったと出てくることのないものがでてくると誰?となってしまい、ページを繰って見直したりしなくてはならない羽目になる。そういうことがちょっと多くなってくると、読み進めるのがしんどくなってしまう。さすがに個性の強いワタナベやユタカ、犬吉、オラガ、ヤンなどはすぐにわかるけども、ヒキメやダクタリ(彼のあだ名の由来が説明されていたけど意味がわからなかった)などになるとお手上げになってしまう。読み飛ばせばいいのだけど、その設定によってはなにか気になってしまったりする時があったりするので、読み進めるペースが落ちた。
そして彼らに対しても誰一人好きになれる人物はいなかった。嫌われているワタナベの幼い時の気の毒な話さえも、まったく感情移入のできない、むしろ何か気味悪い話に感じられ(子供がいる私にとってはこんなことはとても珍しいことでもある)、同情さえできなかった。唯一犬吉くらいはまだましなように感じられるが、それは彼があまりにも個性がないことで逆に目立っているからかもしれないし、そしてその行動や考えにはなにも感じなかった。

出入りの激しい無人島の謎

確かにアナタハン島の事件でも米軍に空襲された船の乗組員の軍人が漂着したり、米軍が原住民たちを引き取りに来たりしているけど、どうにもこの小説にはそう突っ込ませる何かがある。本当にあった出来事をモデルにしている割にはまったくリアリティが感じられないのだ。だからこそ、そんなに流れついてくるものなのかと疑わせる。それは流れついた者やその当時の描写があまりにも少なくて(実際半ページにも足りないくらいだった)、その情景を想像するには情報が足りなさ過ぎて、すべてがその調子だからなにかぽんぽんと簡単に人が流れついてくる感じがしてしまう。だからこそ、無人島にこんなに人が集まるものなの?という疑問が終始頭に浮かんだまま読み進めることになってしまったように思う。

全体的に軽すぎる感情の描写

無人島にはそのような疑問をもったけど、それは恐らく文章の軽さにあると思う。どうも全てに対して軽く簡単に書きすぎるような気がするのだ。例えば清子が脱出に失敗した時や、妊娠した時や出産した時。無人島を出られると思ったそれが裏切られた時の衝撃はあの程度ではないと思う。妊娠した時も無人島でのことだから不安がすごいだろうし、出産の時だってあのような簡単なことではないと思う。それは想像はできるけど、こちら側の勝手な想像では手に汗握ったりハラハラするようなことなどあり得ない。だからこそあのようなところではこれでもかというくらいの描写が欲しかったと思う。
そのような文章や表現の軽さなので、登場人物を好きになったり感情移入してしまうことはなかったのだと思う。
とはいえ、軽さが悪いと言うわけではない。軽いことによって展開もページをめくる手も早くなるとは思う。だけど、個人的にはそれは心にあまりなにも残さないことの方が多い。

もっと書いてほしかったこと

文章と表現が軽いといったけれど、やはり漂流ものなのだから登場人物たちの食事や文化に対する飢え、仲間同士の殺伐感、またその無人島ではどのような生活をしているのかというようなことをもっとたくさん書いてほしかった。もちろんこの小説のテーマは無人島に女性が一人という設定なので他とは違うのかもしれないが、もうちょっとそういうところも読んでみたかったと思う。
他の漂流ものだと最近では「オイアウエ漂流記」を読んだけれど、この小説にはそういう読者のいわゆる“読みたいツボ”をしっかり押さえてあり、一気に読みきってしまった。それには漂流する恐ろしさや無人島で生きることの恐怖、そういうものが細かに描写されていたから登場人物にも感情移入しやすかった。映画で言うとトム・ハンクスの「キャスト・アウェイ」は無人島で暮らす恐ろしさやそれでもたくましく生きようとする気持ちが痛いほど伝わってきたし、漂着こそしていないけどロバート・レッドフォードの「オール・イズ・ロスト」などは最後まで息が苦しいまま見続けた。もちろん映画と小説とは違うけれど、それくらいこちら側に感情の動きがないと、本を読んだり映画を観たりする意味がなくなってしまう。そういう点ではこの小説は、個人的には物足りなさを多く感じた。

映画との比較

読んだ小説が実写化されていたらついつい観てしまう。そして満足できることはとても少ないのだが、この映画もかなり言いたいことがたくさんあった。まず無人島生活している彼らたちの身なりが小奇麗すぎること。あのようなリゾートにいるかのような姿ではいられるはずがないと思う。もっと原始的な生活をしているだろうし、あるもので必死に作ったようなそういう感じが全くしなかった。また清子役の木村多江がキレイすぎるし、小説ではかなり気持ち悪く書かれていたワタナベも窪塚洋介ではないと思う。窪塚洋介は確かにサイケデリックな役柄や、いつ切れるかわからない怖さを出すのはうまいと思うけれど、それは少なくともワタナベの気持ち悪さではない。そしてユタカも福士誠治ではない。福士誠治は芯が強すぎるイメージがあり(役者にイメージを押し付けるのは悪いとは思うけれど)ユタカのおどおどしたところを、彼では出し切れないと思う。この映画を観ている間中、どうしてそんなキレイな服を持っているのかとか、なぜそんな肌が白いのかとか、細かいところが気になって最後まで観られなかった。
展開が大きくテンポの早いものを望むならこの小説は決して悪くないと思う。だけど私にとっては、最後まで読ませる力はあるけれど、いつでも手元において何度でも読み返したいと思うほどのものではなかった。

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