努力をしない者は、壁にすら辿りつけない
トーサナ・ジョウン
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獣の奏者は、2006年11月に講談社から刊行された上橋菜穂子による長編小説で、「闘蛇編」「王獣編」「探究編」「完結編」の4巻と、外伝「刹那」で構成されるファンタジー巨編である。 この作品は、’決して人に馴れることのない、また馴らしてはいけない獣’と、竪琴で獣を操ることができ、獣とともに生きる宿命を背負った少女エリンを中心に、異世界「リョザ神王国」を舞台に繰り広げられる壮大なスケールのファンタジー小説である。 上橋菜穂子の作品は1992年に日本児童文学教会新人賞に選ばれ、2014年には国際アンデルセン賞・作家賞、2015年には本屋大賞、日本医療小説大賞など数々の賞を受賞し、高い評価を受けている。 獣シリーズは、国内発行部数の累計が100万部を突破し、2008年には漫画・コミック化、2009年にはアニメ化され、フランス・ドイツ・スウェーデン・韓国・台湾・タイなどで翻訳刊行されるなど高い人気を誇る作品である。
この作品の著者は精霊の守り人シリーズが有名な上橋菜穂子さんです。精霊の守り人シリーズとはまた違った世界の話ですが、世界観がきっちりしていてとても作品世界にのめり込みやすいです。作品世界の精緻な設定は流石の一言です。第一巻に当たる闘蛇編では主人公エリンの幼い子供時代から母との別れや、ジョウンとの出会い、母と同じ獣ノ医術師を目指す少女時代までが描かれます。全四巻で完結するのでまだまだ導入編という感じで作品世界の生き物や国、人々の謎が散りばめられています。続きが気になるところで終わってしまうので、物語が一旦区切りを迎える第二巻の王獣編まで読むことをおすすめします。
3巻で追求し解き明かされた闘蛇の謎と、リョザ神王国の政変、それに巻き込まれるエリンとイアル、ジェシの運命の行く末が明らかになる最終巻。どんな話?ときかれても、一言で要約は不可能な緻密で複雑な話が、こんがらがりつつも、確かに「結末」と呼べるものを迎えます。ハイ・ファンタジーであり、おそらく作者は意図していないであろうけれど、文明批判とも取れるお話になっているのは、作品がとても良質なものであることの証左でしょう。出てくる生物たちはみな、その種の持つ特性を、言って見れば人間にいいように利用され尽くしています。主人公が最も憂えているのは、「生き物たちが、あるがままに生きることを許されない」ことであるわけです。実に、現実の縮図のように、愚かな思惑が錯綜し、嫌なモノが横行する話のなかで、主人公が「正義」でも「大義」でもなく、生物たちのために必死になる姿が、実に眩しい作品です。この感想を読む
トーサナ・ジョウン
努力することがどれほど大切なことなのか教えてくれる一言