「多崎つくる」の前説的作品を含む、珠玉の短編集。
2013年、『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』は、村上春樹の何冊目かのミリオンセラーとなりましたが、この本のなかには、「多崎つくる」のイントロダクションとも呼ぶべき「沈黙」という短編が収録されています。 「沈黙」は全国学校図書館協議会が刊行している、集団読書テキストというシリーズにも収められ、これは名前から推測するに、授業で大勢で読み、内容を討議したり、感想をしたためたりするようなテキストと思われます。 ともすれば難解と言われがちな春樹作品の中でも、「沈黙」はそういう意図にぴったりあてはまるものだと思います。 「多崎つくる」は学生時代、所属していたグループ全員から「ハブ」られ、人間不信に陥る、という設定ですが、「沈黙」はその部分をさらにこまかく、鋭利にえがいたような作品です。するどく、ひりひりとしながら、じんわりとした読後感が残る作品です。 とても地味なお話ですが、村上春樹の中で、私が最も好きな作品と思うものの一つです。 ほかには謎のいきものが登場するお話(「緑色の獣」「氷男」など)、映画化もされた「トニー滝谷」などを含む、全7編が収録されています。 初期・村上春樹の文体、メソッドがまだ色濃い印象もある作品集ですが、「春樹嫌い」な方にも、読んでもらいたい一冊です。
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