中学時代の自分に当てはめやすい作品
本当にリアルな中学生の日常
あらすじに「少年のリアルな日常」とあるように、同じクラスの生徒が通り魔事件で逮捕されること以外は話の中に出てくる中学生活は本当に現実でも自身の中学時代に当てはめて思い出される状況やキャラクターばかりです。優等生のタモツ君のような存在はいつの時代もいますよね。達観している雰囲気を出し、エイジに「なんでB級のやつとつきあうの?」と言ってしまうあたりですね。
あとはツカちゃんのような正義感強いけど表面は悪ぶっているガキ大将タイプですね。このキャラクターは現実世界で見かけるというよりはアニメで見かけますよね。エイジがそこまでダメなやつじゃないけどのび太君、ツカちゃんが正義感の強いガキ大将ジャイアン、その周りをちょろちょろしている中山君や海老沢君がスネ夫、タモツ君が性格の悪い出来杉君、相沢志穂が明るすぎるしずかちゃん、という風に考えていくとまるでドラえもんですね。ドラえもんがいませんが・・。
エイジがかかった「オスグット病」に関してもリアルですよね。私の中学生時代にもスポーツマンの男の子でなっている子いました。成長期の骨に運動量がついていかないから起こってしまうものなのですが、かかってしまった本人はもどかしいですよね。
中学生の時って、「スポーツは先々できるわけだし」とすっぱり諦めることって難しいですもんね。エイジもバスケが大好きという気持ちがありつつも様々な葛藤を乗り越えてバスケ部を辞めてしまいますよね。私もこの病気かかったことありますが本当に痛いんですよ・・。そのほかにも、相沢志穂のおせっかいさとかサバサバした感じに見せかけているところとか「こんな女子いたいた~」となりましたね。色々な状況・登場人物によって、中学時代を懐かしく思い出すことができました。
ツカちゃんの愛すべきキャラクター
個人的にはこの話の中ではツカちゃんの存在が本当に大事だったと感じています。まずは愛すべきそのキャラクターですね。「ツカちゃんと付き合うときは無駄な言葉がいらない」とあり、エイジがバスケ部を辞めたことに関してはしょっちゅういじってくるのに辞めた理由は聞かないというところがツカちゃんの自然な優しさですよね。本能的に善悪を感じる人がいるようにツカちゃんも踏み込んでいい部分や踏み込んではいけない部分が本能的にわかるのでしょうね。クールなタモツ君もツカちゃんは好きみたいですし。
タカシが通り魔だったということがわかったときも、嘘の思い出話をすることでタカシをかばってあげようとしますよね。さらに、途中では家族が通り魔の被害者になることへの恐怖におびえることになったにもかかわらず、タカシが戻ってきたときにはぶっきらぼうながらも温かい言葉をかけてあげますよね。様々なシーンで、その場にいる登場人物だけではなく、読者までもほっこりさせてしまう存在だったような気がします。
エイジの家族の温かさ
エイジの家族の様子が本当に理想の家族というか温かいですよねえ。父の様子が書いてあるところで「風呂上がりの育毛マッサージが日課になっている。母のダンベルダイエットとどちらが長く続くか競争しているらしい」というのがとてもほのぼのしますよね。夫婦仲がいいのもわかりますし、他の場面で母とエイジがゲームをしている場面が出てきたり、姉も家族に対して一緒に誕生日祝いすることに文句言いつつも律儀に参加したりと家族が仲のいい姿がうかがえます。このような平凡な家庭って実は少ないですよね。
高校生以上の子供が両親とまったく話をしなかったり両親が不仲であったり、何かギクシャクしていたりと、という家庭も多いのではないでしょうか。ただ、その中でもエイジは自分の中にある「その気」つまり「キレてしまう気持ち」のコントロールに戸惑いますよね。
この時期の子供ですから反抗期も関係しているのでしょうね。何か急にふっとわきあがってくる怒りのようなものがコントロールできなくなる時期です。タカシはその気持ちが違う方向に向いてしまったのでしょうか。
タカシの家族環境に関してはあまり詳しくは書かれていませんよね。父や母がちらっと出てきますが、その点だけでは家庭環境に問題があったようには感じませんでしたが、中学生が連続通り魔事件を起こすのですから何か極端なプレッシャーであったり疎外感であったり何か精神に影響を与える環境が存在したのでしょうが、本作では書かれていないので想像が広がりますね。女の子にひどい言葉かけられたくらいで「その気」の引き金が引かれるということはそのような精神状態になる要因が必ずあるはずですからね。
エイジの家族の話に戻りますがエイジが警察に誤解され親が呼ばれるシーンなどでの、父親の対応や話してあげた言葉は理想的ですし、反抗的な態度を取られた際の母の対応も理想的だったように感じます。
いわゆるこれが平凡な家庭、いい家族という形なんだろうと自覚したうえで、タカシの気持ちについて一生懸命考えようとするエイジの姿が印象的でした。
「かわいそう」と「許さない」の間に僕の気持ちはあるという文章がありました。タカシ君に同情するつもりはないが、被害者のように恨む気持ちはないという感想ですよね。同級生が事件を起こした中学生の気持ちとしては一番上手に表現されているような気がしました。まだどちらにも同調できないでいる時期ですよね。
まとめ
中学生時代の話が懐かしく思い出される作品でした。
しかし同級生の通り魔事件・相沢への恋心と本条めぐみとの付き合い方・岡野のバスケ部でのいじめ問題・家族への気持ちや接し方に関しての葛藤・膝の痛みによりバスケをやめたこと・友達との付き合い方などなど、少し忙しすぎたような気がしました。それぞれがそれぞれに思うところが持てる状況で、色々な場面での登場人物の心情を想像するには少し場面が多すぎる気がしましたね。個人的にはタカシの事件とあまり関係のない話ははしょってもよかったのではないかと思いました。
しかし話としては読み終わった達成感もありよかったです。
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