愛情について考える - オーダーメイド殺人クラブの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

オーダーメイド殺人クラブ

4.354.35
文章力
4.75
ストーリー
4.35
キャラクター
3.90
設定
4.95
演出
4.20
感想数
2
読んだ人
3

愛情について考える

4.74.7
文章力
4.5
ストーリー
4.7
キャラクター
3.8
設定
4.9
演出
4.4

目次

ー現代の誰もが抱える、見えない不安ー

この小説に出てくる人々は一様に、

現代特有の「闇」を抱えているように思う。

インターネットで容易に見ることの出来る残虐な画像。

少年の残虐さを匂わせた行為を、目の当たりにした彼女の反応。

嫌悪したはずのその行動に、次第に惹かれていく様。

それらは、幼少期に培われるような、無邪気なものではないのだろう。

純粋に、書店に並んだ写真集に惹かれてしまた気持ち。

美しさと感じた彼女の感性は、果たして現代の彼女でなくても

本当に魅力的に映ったのだろうか。

現在の彼女が置かれている環境が、常に生命の危機を感じるような

危険が届かない安全な環境だからこそ、惹かれるものがあったのではなかろうか。

生が当たり前に確保されている状況下でこそ

残虐なものに彼女は惹かれ、そこに癒やしに似たものを求めていたように感じた。

ーいつも変わらない陰と陽ー

誰かと仲良くしていなければ…自分が孤立しないために。

このような思考や危機感というのはいつも、どの場面にもつきまとっている。

彼女の「学生時代」や「青春」というものを

謳歌しようとすればそこにもまた必然と、

誰かとの「仲間意識」というものが必要になったのだろう。

この主人公ばかりではない、私たちの現実生活においても同じ事が言えるだろう。

だからこそ、彼女の行動は痛々しく、惨めにも感じ、時に強かさを感じさせた。

おそらく、一人になりたくないという気持ちは、

常に抱き続けていれば、生きることが苦痛になるだろう。

だからこそ、彼女は少年と「計画の実行」を

具体的に意識し、見つめ続ける必要があったのだろうと思う。

あやふやな思春期の人間関係、仲良しの時の陽。

誰かが泣いてこそ陽が成り立つ。

彼女は知っていた。泣くのは自分になり得ることを、自分は安泰ではないことを。

彼女にとって少年との「約束」こそが

自らが生きて最期に見ていた逃げ道ではないだろうか。

そのような幸福な終わり、というものはきっと私たちも願っているのだろう。

現実世界の私たちに、恋人や夫婦、家族が居るように。

そして、愛しい人と好きなものたちと暮らしていたい。

最期を迎えたいと願う現実があるように、

彼女もまた最期に辿り着く安らぎを求め、たまたまそれが

少年との事件の実行という目的だった「だけ」に過ぎないように感じる。

ー認識のゆがみー

彼女の生活は、満ち足りた生活に見えただろう。

しかし、きっと彼女は何も満たされていなかった。

愛情をたくさん感じられるはずの、母親の料理なども彼女にとっては

母親が自慢材料の小道具として、作っているようにしか

思えなかったのではなかろうか。

だからこそ、彼女は少年が自分以外に熱を向けることを嫌ったのだろう。

純粋な愛情を、愛情として認識することが出来なかった。

母親と会話をすること、それが彼女には愛情だと認識出来なかったのだろう。

現実の世界に居る私も、実際はきっと彼女と同じだった。

会話というものは相手を受け入れ、距離を適度に測り、認め合うことなのだろう。

彼女も同じくそれが会話という認識であったのならば、

母親との会話は会話と思えなかっただろう。

そして、会話ではなく過干渉だと感じていたとしたのであれば、彼女にとって…

彼女にとっては、母親の心配などは愛情ではなく

押しつけだったのではないだろうか。

最後の彼女が少年に対する「私以外を…」という悲痛な思いは、彼女の歪んだ愛情に思えた。

ー問題提起?それとも…ー

彼女たちの言動などを読んでいる間は、現実の現代に生きる私たちへの

問題提起ではないのかと感じるような、現実社会に密接した内容であったように思う。

しかし、だからこそ彼女の人間関係に揺れる心情は読んでいて苦しくなるような、

同じように気持ちを掻き乱されるようで、不安にもなるけれどトキメキもある。

思春期の恋愛模様にも感じる部分と、思考は大人びていて情報もはっきりある程度ある。

でも、具体的なようで居て、実は現実的ではない。そのような危うさが感じられた。

もし、彼女が現代のSNSを利用していたら、もっと具体的な計画になり、

この小説のような危うさと共存する幼さは得られなかっただろう。

少年の複雑な気持ち、現代においては何一つとして珍しくはない内容ばかりに感じる。

けれども、だからこそより自分の感情に訴えかけてくる彼女の気持ちのつらさや

少年の強がらなければならなかった、それでもどうにか表現したかった心情は

絵画という形に表現されたのではないかと思う。

もし、少年がクラスのうるさい男子と完全に同一化出来ていたのならば

彼女はきっとより一層孤独だったろうと思う。

彼女はただひたすらに、阻害されたくないという気持ちだったのだろう。

現実世界でも同じように、孤立しないために。裏と表。

様々なことに人は悩み、悲しんでいるのだろう。

彼女の抱えている闇は決して作品の中だけの物ではなく、

作られた感情で済まされる気持ちではない。

きっと私たち現実に生きている人間の方がより、裏表に繊細であり、

しかし、それを悟られまいと必死に取り繕っている気がした。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

読後感がよかった

クラスに昆虫系男子と名付けられる男子、私のクラスにもいました。数日で忘れ去られてしまうようなニュースにならないような自殺計画を考える二人は少し現実離れしていて、少しリアルでした。学生の頃、きっと誰もが一度は思ったことがあることを主人公も思っていて、中学・高校時代に感じていたこと、ふと心の中にじわっと蘇りました。イケイケの女子には疎まれるような昆虫系男子だけれど、最後は殺せないって叫んでくれて本当によかった。ここで本当に実行してしまっていたら、今、学生として過ごしている人たちがこの本を読んだとき、どうにも救われない気持ちになるところだったと思います。きっと将来二人はこの計画を立てたこと、きちんと実行しようと本気で思っていたこと、忘れずに生きていくと思います。そして、二人でひっそりと計画を立てていた時間をとても大切な時間だったって認識するんだろうなと思います。大学生になっても、社会人になっ...この感想を読む

4.04.0
  • rina.mrina.m
  • 242view
  • 512文字

関連するタグ

オーダーメイド殺人クラブが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ