メルヘンな簡書体小説
古典的な男女観
昨今でこそ価値観の多様化などと言われるが、男女観、中でも年齢的なところにおいては、カップルでも夫婦でも『男性が年上で女性が年下』というのが王道だろう。
本作の主人公兼ヒロインであるジュディとヒーローポジションにあたるおじさまもその関係だ。
本書ではジュディの手紙を通して、年上の男性に憧れる女性の心理が読み取れる。
一般的に年上男性の魅力としてよく挙げられるのは、成熟した精神と経済力である(当然個人差はあり、必ずしもそうというわけではない)。
本書に登場する足ながおじさんはお金持ちで、慈善活動としての金銭的支援を積極的に行っている。
これによって経済力はもちろん、彼が善意的かつ見返りを求めない優れた人格の持ち主であることの証明にもなり、年上男性の余裕と彼自身の崇高さが伝わってくる。
顔の見えない相手という物語の都合上その容姿は度外視されているが、『憧れの年上の人』として全く違和感のない人物像である。
また、ジュディからおじさまへ宛てた手紙の文章だけで物語が進むという構成も、自分の話をすべて聞いて受け止めてくれる包容力があるものとして感じ取ることもできる(本当はおじさまは手紙を読んでいないのではないか、と疑うシーンもあるが)。
女のおしゃべりは相手に意見を求めているのではなく、自分が話したいだけの話を聞き入れてほしい(反対意見を言わないでほしい)ということ、という女性心理がおじさまへの手紙で満たされるのが分かる。
ここまで年上男性の魅力を述べてきたが、年下女性の魅力も本書、もとい主人公のジュディには描かれている。
彼女が手紙の中で使う敬語は年下感を強調しており、『あたし』という拙い一人称は幼さを感じさせるし、感嘆符を多様していることからは彼女の天真爛漫な性格がうかがえる。それらのすべては、愛嬌といって差し支えのないものだろう。
初めての大学生活にわくわくし、出来事のひとつひとつをおおいに楽しんでいる様子は非常に無垢で初々しく、これも比較的年下の女性に多く見られる魅力だと思う。
物語の最後にジュディとおじさまは結婚するが、おじさまが具体的にジュディの何に支援者ではなく男として心惹かれたのか、その描写はない。
が、手紙を読んだ謎のおじさまが彼女のそんな純粋で可愛らしい一面に魅力を感じたのだとしても、なんら不自然ではない。
凝縮されされた女のロマン
シンデレラや白雪姫しかり、素敵な男性が不幸から救ってくれ、さらにその男性と結ばれ、幸せになるというのは女のロマンである。本書はそれを綺麗にまっとうしている。
おじさまは最初、女の子の支援は行っていないと言われていた。そんな中ジュディが支援を受ければ、自分だけが特別に選ばれた存在なんだ、と当然思うだろう。
女とは他人に甘やかされ、それによって自分の価値を感じ、自惚れていたいと思う生き物だ。作家になる才能があるからという理由で大学に通う資金を援助され、高価な贈り物を何度もされる、といった一連の流れは、まさにその女心を満たしている。
その彼が支援を行っている女は自分だけで、手紙のやりとり(といっても手紙での返信はなく、贈り物という形で返ってくる)を自分とだけ行っているというのだから、優越感や独占欲も満たされる。
ジュディが本当の自分を見つける物語
ジュディは孤児院ではジェルーシャという名で呼ばれていた。それ墓石から拾ってきた名前で、ファミリーネームは電話帳の頭に記載されていたものを起用された。要は適当につけられた名前ということで、彼女はこれを気に入っていなかった。
楽しい大学生活が始まると、彼女は自らの名をジュディと変えた。
これは文字通り彼女が別人になった、つまり生まれ変わったことを意味しており、孤児院で不満ばかりを募らせていた頃とは無縁になったということが強く実感させられる。
ジュディとして手紙を贈り続けるうち、返事のないおじさまを不安に思ったり、その支援ぶりに感謝したり、時には怒りを露わにしたり。
孤児院でさまざまな不満をずっと呑み込んで生きていた頃とは比べものにならないほど、彼女は生き生きとしていた。それこそが彼女の本来の気質なのだということはもはや明らかである。
彼女が本当の自分を見つけることができたのは支援してくれたおじさまのおかげであり、大学という環境のおかげなのだが、それと同時に『手紙を書いて近況報告』をするという行為のおかげでもあるだろう。
不満を呑み込みがちだった彼女にとって、日記も同然の手紙を書いて喜びを噛み締め、不満をぶつけるという行為は大きな支えになったことだろう。
物語の最後は大学を無事に卒業したジュディがおじさまとの結婚を噛み締めるシーンで終わる。
彼女はとうとう彼(おじさま)のものになり、家族となった。これは家族のなかったジュディ、もといジェルーシャとの対比であり、鮮やかなビフォアアフターとして彼女が幸せになったことを明白に示している。
最後の手紙をジュディはラブレターだと書いているが、簡書体小説であり恋愛小説でもある本書そのものが、ジュディからおじさまへの人生の一部を綴ったラブレターだと言えるかもしれない。
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