さすがの宮部みゆき
永遠の閉鎖社会。
宮部みゆき先生。言わずと知れた現代の大物作家です。宮部先生の作品はほぼくまなく読んでいますが、ここ何年かは時代物を多く書かれていて、時代ものはあまり好きではないのでしばらく離れていましたが、久々の現代ものでの模倣犯以来の大作、このソロモンの偽証はもう待ちに待ったという感じでした。しかも題材が”学校”です。この永遠の閉鎖社会をどう描くのか?非常に興味津々でした。しかも、どうも’いじめ’絡み・・・?とも言える内容で、どうやってこの難しい題材を調理して書かれたのか?非常に楽しみでもありました。この何十年も、特にネットが普及し、ソーシャルネットワークが若者の生活の中心となり、その中でのイジメを苦に自殺する少年少女が後を絶ちませんし、学校側がイジメが存在していた、それが原因であったと認めたケースはほぼ稀です。警察は自殺はそれ以上の捜査はしませんし、学校側も事を大きくしたくない。残された遺族の心情は想像だにできません。真実を知るのが良いのか悪いのかも分かりませんが、宮部みゆき先生ですから、徹底的に掘り下げて書かれたのだと自信を持っていましたが、結論から言って、素晴らしい小説でした。
学校嫌い。
世の中にはどれほどの学校嫌いの生徒がいるでしょうか?学校が楽しいと思って通っている生徒はどのくらいいるのでしょう?私はいつも不思議でした。学校生活のどこがどう楽しいのだろうか?と。私自身は学校は小学校~高校に至るまで、一度も楽しいと思った事はありません。いじめにあっていた訳ではありませんし、友達がいなかった訳でもありませんが、いつも、何か、怯えて暮らしていたような気がします。常に人の目を気にして、嫌われないよう、好かれるよう、ある程度目立ったグループにいたいからその為の努力、正直、凄く毎日がしんどくて仕方ありませんでした。この小説の中では、そんな生徒の色々な心情なども色々書かれています。いじめる側、いじめられる側。イジメには合っておらず、イジメにも関わってないというのは実際には存在しなくて、そのどちらかに分けられると私は思っていますが、その辺りも見事に描かれていたと言っていいと思います。今でこそ、スクールカーストという言葉がありますが、これはもう太古の昔から延々と続く学校生活には切っても切り離せない問題、と言ってもいいと思います。どうしてイジメっ子が存在するのか?その辺りもこの小説はその一端を上手く描いていると思います。
事件。
この第一部では、「事件」。まさに事件の起こり、その謎を描いています。自殺した生徒と、その生徒達の学友、先生、そして事件に関連している塾友達。そのそれぞれの生徒のバックグラウンド、心情、絡まる事件の発端、まさにこの導入部分で読者をガッチリ掴んでいきます。私が一番この中で興味を持って読んだ生徒は、自殺した柏木卓也のバックグランドではなく、いじめられっ子の三宅樹里でした。イジメの部分がやはり一番のインパクトでした。彼女の心理・深層の描写は一番深く面白かった。彼女の部分の物語を読んでいると、勉強を教える以外の学校の先生の存在価値って何だろう?と考えます。存在価値というか、存在意義というか、勉強を教えるだけならば、塾の先生で良い訳です。学校の先生になろうと思ってなった先生は、学校においての自分の存在意義をどう考えているのかなと思います。勿論、最初は色んな熱意を持ってなったのかもしれませんが、学校社会という閉鎖された世界で、他の先生との確執とか、学校の大義名分とか、モンペとか、そういったものに巻き込まれて辟易してしまうのだろうと想像はできますが・・・。
そして、永遠の課題。
学校の永遠の課題、それはやなりイジメです。この物語は、色々は事が描かれていて、イジメが題材の物語ではないのですが、イジメが事をややこしく、複雑にしている事は明らかです。イジメをする人はこのような小説を読んでどう思うのか、それともこういった本は読まないのか、はたまた心の中では自分自身もトラウマになっているのか?それは分かりませんが、どちらの側に立っていた人間にも一考を投げかける小説であると思います。ありきたりの・・・がどういったものかは分かりませんが、中学生という最も個人的には多感と言える時期の学校を題材とした小説としては、さすが宮部みゆき先生だと思う仕上がりです。このレビューは第一部の事件のものなので、これ以上の展開は書けませんが、イジメられっ子の三宅樹里の心をえぐられるような心情の描写の一つ一つ、そして、それを読んでどこか嫌悪感を持ってしまう自分自身の心情、多分そこから生まれるのであろうイジメという社会事件、読んでいるうちに自分の遠い昔の、忘れかけていた学校生活を思い返し、また、物語の中の登場人物として自分が当事者として引き込まれていたような錯覚になりました。
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