タイトルからは想像できない恩田ワールド
目次
「木漏れ日に泳ぐ魚」からイメージするもの
このタイトルからどういう内容の本をイメージするでしょうか?素直にイメージすればタイトルの意味の意味通りに「木漏れ日の間からもれる、美しく日の光が当たる水辺で泳ぐ魚達」です。それは、とても静かで穏やかな空間です。嵐の前触れなんて微塵も感じる事ができません…。
「男女の別れ」「腹の探り合い」「殺人」となんとも後味の悪いスタートからはじまるのです
タイトルとは裏腹に読み始めると同時に読感が、とても悪いのです。なんとも不穏な空気が漂いはじめ、これはただの男女の別れではないなと感じさせられます。
引っ越しの前夜のがらんとした空間で普通別れる男女が、一晩過ごすなんてあり得ないでよね。男女の別れってお互いにもしくは一方が嫌になって別れるのでしょう。それなのにこの設定からとてつもなく嫌な空気を感じます。だからこそ冒頭から恩田先生の世界に引き込まれてしまうのです!
読みながら心の中で「何がはじまるのだろう?」とドキドキさせられ次のページを早く読みたくなります。「この物語に何が隠されているのか?」「どんな伏線があるのか?」といろいろ考えしまいますね。そうして私自身もこの2人と一緒になんとも言えない不穏な夜を過ごす事になって行くのです。
どちらが殺したのか気持ちの探り合いスタート
なんとも物騒な話です。「どちらが観光案内をしてくれた男性を殺したのか?」という真相の探り合いがはじまるのです。どう考えてもあり得ない設定ですよね!
しかも、亡くなった男性が二人の実の父親であったという意外な展開にまたもやびっくりするばかりです。誰も想像出来ないです!
私は、正直この部分は重過ぎて苦手でした。今までこの2人は、いろいろありつつも…。好きでつき合って来たはずなのに、殺人の犯人の探り合いをするまでに信頼感を失くしてしまうものかと思ったのです。出来れば第3者である誰か、例えば共通の友人とかという設定の方がライトで良かったと感じたのです。
父親は実の息子だと分かっていたのか
「死人にくちなし」なので真相は、今となっては誰も分かりません。あくまでも憶測になってしまいます。「本当のことをこの父親は、どこまで知っていたのか?」が、やはり気になりませんか?
3人で微笑む写真が語る本当のことってなんでしょうね?あくまでも写真だから笑っていると思う人も読者もいるでしょう。逆に、本当の親子だと何も言わず血のつながりで分かったのだと思う方もいると思います。私は、断然後者の考え方なのです。
息子が会いに来てくれた上での死だった救いがまだあると思いませんか?私は、父親は、実の息子であることに気付いたと思いたいのです。なぜそう考えたかは…。観光客相手に向けられる笑顔と実の子供達への笑顔って絶対に違います。その写真の父親の笑顔は、温かく微笑ましいものだと思われるのです。今までないがしろにして来た自分への不甲斐なさも含まれた笑顔です。子供達を思う父親の申し訳なさ、切なさ、喜びなど親としての感情が全て笑顔に表れていると思います。そして、そうであって欲しいのです。
父親の死は本当に事故死なのか
父親の死の原因もあくまでも千秋の想像上の物に過ぎません。断定されたものでは、決してありませんよね。
妻とのいざこざを避けるための事故死が真相でしょうか?私は、ここも違うと思うのです。明らかに千秋が自己保身のために想像しているものに過ぎないのです。草で作られた罠というのが、どうにもひっかかるのです。理由もなしにそんなものを作らないでしょうし…。
千秋が罠を作った理由はただ一つです。罠にはめて事故死に見せかければ警察に捕まらずに済むからです。怖いですよね!いざとなったら男性よりも女性の方が、復讐心が強いというのもあります。
ずっと放ったらかしだった父親に自分たちの存在を知らないとは言え、会えて単純に嬉しいと思えますか?相当寛大な心の持ち主でもない限り無理だと思います。まして、自分たちが別れなければいけない理由は、きょうだいだからなのです。その原因を作ったのは、父親です。女心として許せませんよね。
でも包丁などで殺害してしまったら自分は警察行きです。捕まらずにさりげなく運が悪いように見せかけて殺そうという手段です。さりげない父親への復讐心が、すごく秘められた千秋の心の中が見えるようで怖いのです。
妻とのやりとりの合図の時に足を運悪く千秋が作ったを草の罠に引っかかり転落死してしまったのが、本当の真相だと思うのです。
双子のきょうだいという男女関係の設定
双子だからこそ思わぬ出会いで引かれ会ってしまった二人。まさか双子のきょうだいの男女関係なんて設定を誰が予測できたでしょう?無理過ぎます!最初は、本当に普通の恋人同士の別れ話しメインだとばかり思っていたので驚きました。
しかし、この設定って男女関係についてすごく考えさせられたのです。禁断の恋だからこそ人って燃え上がり離れたくないお互いを束縛したいと思うのです。人ってそういうところありますよね?
例えば、不倫とかもそうですよね!人のものだから好きになってしまうのですよ。自分のモノにしたくなる気持ちって沸き上がってどうしようもない状態になってしまうんでしょうね。
普通の恋愛だとここまではいけないのかなとも思います。だって好きだったら結婚し嫌いになったら円満に別れる。全てが円満に終わりますよね。円満なハッピーエンドがない恋だからどうしようもなく好きになってしまうんですね。だからその人にそこまで固執できるのだと感じるのです。
2人の関係は、ただのいとこだった
結局は、きょうだいだと思ったらこういう結末でした。恩田さん最後まで二転三転して驚かせてくれますね。さすがです!
ここで不思議だと思うのです。いとこ同士なら結婚も出来るのにハッピーエンドにはならずに終わってしまうのです。普通の作家さんだったらそうすると思うんです。
でもハッピーエンドにしないことで男女の機微が、手に取るように分かります。一度冷めてしまったら恋に後戻りは無いということに気付かされるのです。この辺りリアルな恋愛感情が、うまく伝わってきますね。恋いに恋しているうちは、本当の自分の気持ちに気付けないんですよね。少しのことなら自分をごまかしても好きでいたいという女性の重い気持ち分かります。冷めてしまうと意外とあっけない終わりなのが、恋ですね。
こうして物語りは終わります。夜という真っ暗闇の不気味な空気が漂う時間帯からスタートした微妙な話し合い。不気味で不穏でなんとも重いのです。しかし、朝になり太陽の明るい光が照らし出されることで物語りも終わります。おそらく2人は、いろいろあったけれども明るく再出発することができると思います。
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