ガンダムシリーズ中でもピカイチの戦闘シーンが満載! でも人間ドラマはイマイチ!
0083劇場版!
本作は劇場版という位置づけではあるが、OVA全13話中の12話までが発売された時点での劇場公開であり、OVA最終話は本作公開の約一か月後に発売されている。
その時系列を考えると、劇場版の存在そのものがOVAの購入を誘うマーケティング戦略の一環と判断して間違いないだろう。
そんなわけで一本の映画としての出来は度外視して見るべき作品だと思う。
この「ジオンの残光」ではコウ・ウラキがガンダム試作3号機強奪の罪で収監された後、大人の事情で彼の罪状が消滅したというテロップが流れるのみで、釈放されたとか、その後どうなったかは不明のままだ。
しかしOVA最終話では、彼の釈放時のエピソードが少しだけ書かれており、本作の軸の一つであるコウとニナの恋愛の顛末はこちらでしかわからない。
要するに、劇場にも行って、OVAも買ってくれ、という構成なのだろう。
ガンダムシリーズの中での位置づけとしては、1stガンダムとZガンダムを繋ぐミッシングリンクの意味合いと、メカがばんばん出てきて戦闘シーンが凄いドンパチ系ガンダムを確立した、と言って良いかもしれない。
戦闘シーンはとにかくかっこいい。それは誰もが認めるところだろう。
しかし、ヒロインであるニナ・パープルトンを筆頭に、キャラクターの不人気さも群を抜いた作品とも言える。
その不人気さの理由を考察しよう。
ニナ・パープルトンの罪状?
彼女はガンダムシリーズ中、もっとも悪名高く、不人気なヒロインであることは間違いないだろう。
そもそも、過去にガトーと交際関係にあった、という設定が必要だったのか、さっぱりわからない。
ある意味人生ってこんなもんよ、という普通の人ということなのだろうか。
たまたま付き合った二人の男性の所属する陣営が分かれていただけのこと、冷静に見れば、ニナ本人は連邦やジオンに属していたわけでもなく、節操がないということもない。
それなのに何故これほど嫌われるのか。
やはり言動に問題があったからだろう。
「私のガンダムが!」というセリフが代表的だが、このセリフだけなら「ガンダムフェチ」として受け入れようもあったと思う。
誰もが許せないのは、クライマックスでガトーをかばってコウに銃を向ける動作だろう。
小説版で無抵抗のガトーを殺させないためのコウを想う気持ちの表れ、という説明があるが、後付けにしても納得が行くものではない。
そんな複雑な考察を伴う行動をするのなら、一言か二言くらいは説明する責任があるだろうし、銃で威嚇する必要もない。
更にコウへの配慮とするなら、明らかに方向性が間違っていると私は思う。
彼はこの時、ガトーを倒さなければ先に進めない、と思うほどその打倒にこだわっていた。そして彼は軍人であり、パイロットとして既にたくさんの人間を殺しているのだから、今更ガトーを殺さないことに何の救いがあるのか理解できない。
無論モビルスーツ同士の戦いと目の前で直接殺すのは違う、という意見もあるだろう。
しかし、コウの職責上の責任を考えるならば、軍の士官として敵の重要人物を捕捉する、あるいは殺害するのはやむを得ぬことではないだろうか?
もし彼女がコウの事を想うのなら、ガトーを倒すという満足を与えるべきだったのだ。
ガトーに対しても無礼な振舞だったかもしれない。
彼は武人として作戦の成功さえ納めれば、自らの死は仕方ない、と考えていたはずだ。
コウに銃撃された時点でコロニー落としはもはや成立しており、作戦上は勝ったのだからむしろそこで死んでも満足だったのではないだろうか。
その後コウとのMS戦でも概ね勝利したものの彼にとどめを刺さず飛び去ったのは、やはり女性に助けられたひけめもあったのだろう。
どちらにしてもガトーをその場で助命したところで、星の屑作戦の先陣を担ったものとして生きて普通の人生を全うすることなどありえない。
、
結局、ニナの行動を正当化する方法は無い。
いっそシンプルに、目の前で自分が関連した人間が死ぬのが嫌だった、という単純な理由であった方が人間としては受け入れやすいように思う。
ガトーとニナの恋愛を想像してみよう
アナベル・ガトーは一年戦争の際にソロモンの悪夢と恐れられ、ア・バオア・クー戦で死を覚悟していたが、デラーズに生きるよう説き伏せられたため命を永らえた。
古風な職業軍人気質もあり、その時から彼は死に場所を探していたと言えるだろう。
と、思っていたが、ニナとの事を考えると彼への印象は変わる。
一年戦争終結後、月で潜伏生活中に知り合った、ということなのだが、どうも理解しにくい。
彼が月潜伏していたのは宇宙世紀0080から81年までであり、本作から2年前の事だ。
本作開始時ニナは21歳なので、ガトーと交際していた時、彼女は19歳ということになる。
せめてニナが成人していればアナハイム社でMSの視察中、などの予想もできるが、19歳の彼女は既にアナハイムにいたのだろうか?
ジオン、連邦のそれぞれは一年戦争で多くの人材を失っているので、20歳そこそこの左官がいるのも頷けるのだが、ルナリアンにそれは無いのではないだろうか?
未成年のニナと潜伏中の彼がどのように恋仲になったのだろう?
ガトーも無論生きている以上、食事や買い物くらいはしただろうが、そんな場所で見かけたとしても声を掛け合うような二人には見えない。
ここはベタだが、落ちぶれたジオン兵に絡まれたニナをガトーが助けた、というのはどうだろう?
何気なく夜のフォンブラウンを歩いているガトー。
ふと目線の先に、若い女性に絡む酔った男たちが見える。
その男の言葉尻にジオン訛りを感じ、怒りを覚え鉄拳制裁するガトー。
「貴様らっ、崇高なるジオンの人間でありながら、酔って婦女子に無礼を働くなど恥ずかしいと思わんのかっ!」
酔漢たちは逃げ去るが、返り血を浴びたガトーの服が汚れている。
礼を言い、ガトーの服の血を自らのハンカチで拭くニナ。
「あなたもジオンの方なのですか?」
影があるけど紳士なガトーにハッとするニナ。
19歳という年齢の向こう見ずな感覚で、どんどん話しかける。
この時はまだデラーズ・フリートに合流しておらず、少し捨て鉢になっていたガトーは純真なニナに惹かれる… かもしれない。
コウ・ウラキって何だったんだろう?
結局彼はこの作品の中で何をやっていたのだろうか。
ガンダムのパイロットになりたい、という希望はかなったものの、それ以外に彼がつかんだものはあまりない。
短期間でパイロットとしては急成長を遂げ、数値上の戦果は上げている。
しかし、クライマックス時点での彼の行動原理である、ガトーを倒すこと、コロニー落としを阻止することは未達成のまま終わった。
OVA版のラストを見れば、ニナとの交際は再開するのかもしれない。
しかし、どう考えても彼らの関係は長くは続かないだろう。
コウは左遷され、再び憧れのガンダムに載る道は閉ざされた。
まだ20代そこそこの若者でありながら、自分が所属する組織を信用できず、夢もない。
ニナとの愛は苦悩を薄める可能性もあるが、恋愛経験が少なそうな彼が、自分自身がついに勝てないまま死者となったガトーの幻影に打ち勝てるだろうか?
自分に銃を向けたあの日の行動は否定できたとしても、彼女がかつての自分の仇敵と恋仲であった事実は消せないのだ。
そんな彼でも10年、20年の時を過ごせば無論大人にはなるだろう。
しかし2年年長であるニナはその時間を待てないのではないかと思う。
ニナは取り敢えず、デラーズ紛争終結時の気まずさを埋めようと努力するだろう。
しかし人間の行動など一事が万事である。
コロニー落としの際にガトーをかばって彼に銃を向けたいきさつを、コウに納得のいく説明をできなかった彼女が、人生に必ず起こるトラブルに際して、都度気が利いた説明ができるようになるとは思えない。
この手のカップルの先は読めている。
コウ「君が考えていることは僕には少しも理解できない!」
ニナ「何故私の事をわかろうと努力してくれないのよ!」
二人はそんな喧嘩を繰り返したのち、別々の道を選択することを選ぶのではないかと私は思う。
ガンダムシリーズでこれほど何も成し遂げず不幸だった主人公は稀有である
恋愛や人間関係は不幸でも、殆どのキャラはラスボスを倒すなどしているし、相手を倒せなかった、シン・アスカや三日月・オーガスらは愛する人を得ている。
敵も倒せず、戦闘目的も果たせず、愛情も得られなかったコウ・ウラキ、ある意味彼は史上に残る存在となったのかもしれない。
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