女子高生に戻ったような気持ちになります
指について
品のある文体で、落ち着いて読むことができます。
状況描写も的確ながら、うるさくなりすぎず、情感をたっぷりと残しています。
本作品は17歳の女の子達の視点から6編の短編を描いたものです。
全編に渡って女子校の独特の雰囲気や、思春期の女の子しか持ち得ない、毒や無情感を感じます。友情について、家族について、中学生よりも達観していて、それでいて大人になりきれない部分を上手く描いていると思いました。
「指」では学校での日常と、夫婦仲の良くない家庭での一こまが、交互に描かれます。そしてそこに入り込む、非日常。
父母どちらにも顔色を伺う菊子は、もう家庭が破綻していて、元に戻らないことも薄々分かっています。それでも取り繕うように振る舞う、彼女の息の詰まるような気持ち。
「指」の持ち主にすがってしまうような、どこにも行き場のない気持ち。
それが思春期の鬱屈した気持ちそのものを表しているように感じました。
「緑の猫」について
親友が段々と精神的におかしくなっていくストーリーです。
個人的に好きなのは、エミの傘に高野さんが勝手に名前を書き、自分の物にしてしまう場面です。
どう見てもエミの傘なのに、堂々と「名前を書く」という行為で盗んでしまう高野さん。なんとも言えない気持ちになりますよね。
学校で人の物を盗んでしまう子、一人はいましたよね。
でも私物全てに名前を書いているわけではないし、本当に盗まれたのか曖昧になってしまいます。
そして盗んだ当人も悪びれることもなく、普通の顔をして学校生活を送っていたりします。
盗まれた方はモヤモヤしながら諦めるしかないわけですが、そんな学生時代の情景を、きちんと描いた場面だったと思います。
「飴玉」について
高校生ともなれば、容姿や親子関係、親の経済状況などに、他人との格差を感じてしまうものです。
それはまだ自分達では埋めることはできないし、どうすることもできない壁として、彼女達を蝕んでいきます。
太っていて経済的にも一般的な家庭で暮らす加奈と、美人で裕福な家庭に生まれ育った柚。そして、ブスでデブで援助交際で稼ぐ彩の対比で物語は進みます。
その世間から無意識に向けられる悪意や、友人との格差にひっそりと加奈が傷ついている様子がよく描かれていると思いました。
もう少し大人になったら、そうした現実と自分との埋め合わせができるのですが、学生の彼女達には、まだ受け入れる事しかできません。その結果としての「破壊行動」に、静かな凶器を感じました。
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