傭兵、民間軍事請負会社の仮想の実情 - パイナップルARMYの感想

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パイナップルARMY

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傭兵、民間軍事請負会社の仮想の実情

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.0
設定
5.0
演出
3.0

目次

冷戦中に描かれた「傭兵漫画」

この漫画の連載がスタートした1985年は、冷戦後期です。ハリウッド映画などの影響で「傭兵」という言葉を聞くと、お金をもらって戦争をする人を浮かべますが、実際は、戦闘インストラクターとして銃器の扱いを教える教官の仕事や、正規軍人が面倒に感じる紛争地域での食料を含む輸送任務など多岐にわたります。近年で傭兵が大きく取り上げられた事件は、9.11後のイラク戦争が終わったイラク国内で、民間軍事請負会社(PMC)に務めるアメリカ人が殺害され、遺体が乱暴に扱われた映像が世界中に流れた出来事です。当時、最大の疑問として挙げられたのは「彼らは何者か?」ということでした。当時、PMCについて正しく描かれた書籍も少なく、解釈するのに時間がかかるところでしたが、私が思い出したのが「パイナップルARMY」です。

戦闘インストラクターとしての「ジェド・豪士」

豪士は作中で、様々なタイプの人間に「戦闘インストラクター」として仕事を行います。両親を亡くした4姉妹、女性警察官、平凡なサラリーマンとその息子など。しかし、彼は事あるごとに「俺は戦闘インストラクターで、兵士じゃない」と戦闘に参加することを拒否しますが、尽く戦闘に巻き込まれてしまいます。

戦闘インストラクターとしての豪士は、依頼主の体力づくりからスタートします。漫画としてリアリティを出すために必要な場面でもありますが。現在の民間軍事請負会社(PMC)は、正規軍人のOBなどによって企業され、所属する「社員」たちもOBが多くを占めます。そのため、基礎体力がある状態からスタートします。しかし、ビジネスマンがPMCへ転職する場合もあります。直近のイラク戦争後、各国の軍隊は自軍の兵士の死亡が自国の選挙に影響するため、民間へ委託できそうな業務について積極的にPMCと契約を結びました。その為、PMCへの転職が簡単になってしまいました。中東という高温低湿で、戦争後という混乱状態にあるハイストレスな環境で業務を実施するにあたり、正規軍や警察などの法執行機関での業務経験が無い人間に対しては、やはり体力づくりからスタートします。

次に、豪士は専門的な知識についてのレクチャーを行います。ジェド・豪士の専門は爆発物です。手榴弾やグレネード弾、それらを使ったトラップ等です。作品名の「パイナップルARMY」は彼が使う手榴弾から来ています。アメリカで開発されたマークⅡ手榴弾というもので、外見が凸凹しておりパイナップルのような形状をしています。作中、豪士は不利な条件での仕事が多いため、待ち伏せ、いわゆるアンブッシュな作戦を取ります。この際、大きく効果をあげられるのが爆発物を用いたトラップです。その為、豪士は依頼主に爆弾の作り方を教える様子が描かれています。多くの方が抱くイメージでは、まず銃の扱い方を教える様子を思い浮かべるはずですが、このズレが本作を読んでいて、妙なリアルさを感じさせます。

そして、実際戦闘に巻き込まれてしまいます。豪士に与えられた条件が不利すぎるので仕方がないのですが、教え子が殺されてしまうという心理が見え隠れします。不利な条件とは、依頼主が正規の軍人ではないのに相手が元特殊部隊、と言った具合です。結局、インストラクターを越えた仕事を行う羽目になってしまいます。

豪士の手作り武器

依頼主が民間人であったり切羽詰った状況であるため、その場にあるものでなんとかする、サバイバル的な武器が多く登場します。作中ではジェド・豪士がベトナム戦争に従事していたことに触れており、読者にこの人物が経験豊富であるという印象が与えられます。

多く登場するのが、手榴弾を使ったものです。手榴弾の安全ピンとワイヤーを連携させたトラップなどです。また、爆薬自体を自作するシーンもあります。化け学についても明るいキャラクターがわかります。第1巻で印象的なのは手作りグレネードランチャーです。火薬などの力で爆弾を遠くへ飛ばして遠くで爆弾を爆発させる武器です。豪士はこれを、ボール紙で固めた筒で自作してしまいます。作中ではうまく動作していますが、代用品として、適当な鉄パイプなどでもよいかと思います。

ライフルについても手作りのシーンがあります。筒を木製の板にビニールテープのようなものでぐるぐる巻にして取り付けています。厳密に言えば、ライフルとは筒、つまり銃身の内側に螺旋状の溝を掘っている銃砲についてのことを指しますが、これも作中ではうまく動作しています。これらの「手作り」感は、後の浦沢直樹の作品でも随所に見られるようになります。手作りする理由は作中で明確に説明はなされていませんが、状況を踏まえると準備期間が短いことや予算が無いことなどが挙げられます。

作中で非常に緻密な作業を行う豪士ですが、コメディーとして日曜大工が下手です。おそらく浦沢直樹のコメディーです。ですが、ベトナム戦争後のアメリカの状況から一読者として推測すると、豪士のPTSDの可能性があります。戦闘に特化したモノの取扱や組み立てには一切の乱れがありませんが、日用品の取扱についてはミスが多いのは、何らかの心理的描写なのでは、と深読みをしてしまいます。ここまで深読みさせてくれるのがパイナップルARMYのリアリティであり面白さです。

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