大切に生きようと思わせてくれる作品
名前
この作品の個性・特徴といえるのは主人公の名前を表す【】であろう。
どうやら主人公自身が他人から名を呼ばれる際に相手が自分に対してどのような印象を抱いているか想像し、その想像結果を【】内の文字としているようだ。
一見奇抜なものとして読み手の視界には映るがよく考えてみると私たちも日常でよくおこなっている行動ではないだろうか?
他人と会話する場合何となく相手の口調や声色・表情などから自分に対する印象を無意識のレベルで感じ取っている気がする。
そのためこの設定はとても私たち読み手の興味を引き、主人公への親近感を沸かせグッと物語に引き込むきっかけとなったはずだ。
私たちは「名前」というものに大きな価値を感じていると思う。
話す相手がいたとして一番初めに気になる相手の情報は名前ではないだろうか?
名前を知り、その後の相手の印象や情報をインプットしていく。
相手に対する呼び名がほしいのだ。
そして相手には自分の名を呼んでほしいと思うだろう。
名前は自分の存在を示すものであり、自分がここにいることを証明できる安心感のようなものがあると感じる。
そのためこの主人公の名前が気になった人の数は多いだろう。
名前を知りたくて作品を読み進めた人も少なくはないのではないだろうか?
私たちに無意識に刷り込まれている名前に対する必要性。
その習性を上手く使いこなした作品といえるのではないだろうか。
生きること死ぬこと
この作品はヒロインの病気・間もなくの死を主人公が知ったことにより物語が展開していく。
普段生きていると年齢にもよると思うが「死」というものは自分の人生の少し遠い部分にあるような印象をもちながら生活している人がほとんどだろうと思う。
しかし死は常に身近にあるものだった。
突然の余命宣告で死が急に近くにやってきた訳ではない。
生まれたその日から私たちは死と寄り添いながら生きている。
”もしも自分が余命宣告されたとしたら死ぬまで何をして過ごそう?”と考えてみた経験はないだろうか?
きっと自分の好きなことをして過ごすことや、大切な人たちにお礼を言うこと、自分の何かを残そうとすることなど様々な考えが浮かんだはずだ。
しかし今まさに余命宣告された状態と同じ価値の一日を私たちは生きているのだ。
何事も明日やろう・つまらないけど我慢しようなどと言い訳しながら死んでいくことになったとしたら?
そんなことをヒロインの「私も君も明日死ぬかもしれないのに」という台詞から考えさせられた。
そして何をするかというよりは誰と共にいるかということが重要なことなのだと思う。
生まれた瞬間から死が身近にあったもので、全ての生命はいつか亡くなる。
それは誰にも止められないし誰もが頭では理解しているだろう。
しかし私たちは死に対して恐れの感情をもっている。
そのため自分の死・大切な人の死について考えることを拒絶してしまうのだろう。
限りがある命。限られた時間。
その中でどのくらい笑えたか。これが一番人生において1番重要なことではないだろうか?
ヒロインはいつだって笑っていた。自分の死をものすごく身近に感じていただろう。
それでも笑うことを選んでいた。
この作品で笑顔の大切さ・毎日を楽しむ大切さ・身近な人への感謝の気持ち・ヒロインから学ぶことはたくさんあった。
そして、このヒロインは病気で亡くなるはずが通り魔にあって最期をとげた。
当たり前のように病気でなくなるのではないかと予想していた人は少なくないだろう。
私もその一人だ。
私たちもいつ自分の人生の物語が終わることになるか分からない。
その日のために今からできること、準備すること、後悔のない日々を過ごすこと、意識から変えていければ人生をもっと有意義に過ごすことができるのではないだろうか?
主人公の変化
主人公は始め無口で人とコミュニケーションをとらず一人の世界観の中で生きていた。
それも決して悪いことではないだろう。
人は誰しも主人公のような感情・考え方の一部分をもっているように感じる。
そして主人公のように生きている人も大勢いるだろう。
しかし主人公はヒロインとの出会いをきっかけに少しずつ変化していく。
ヒロインの人間性に憧れを感じ、そうなりたいという自分の本心に気が付くのだ。
自分とは対照的な人間に惹かれ、眩しく映る経験は私たちにもよくあることだろうと思う。
知らず知らずの間に相手から影響されていることも多いはずだ。
自分の考えとは真逆の発想の相手はとても刺激的で新鮮な気持ちになり尊敬する部分も多いだろう。
ヒロインと一緒にいるうちにヒロインの気持ち、嘘を言っていることを見抜くことができるようになっていたが、人は真剣に相手と向き合うと相手の仕草・癖・口調・表情など様々なことから相手の本当の想いというものに気付けるのだと思う。
そうして真剣に向き合えた人間関係は強固な絆で結ばれるものなのだと感じる。
始めにヒロインの死という秘密を共有したから絆が生まれた訳ではなく、それは単なる出会いのきっかけでありその後の二人の向き合い方でこの絆は生まれるか生まれないか決まるのではないだろうか。
人間は大切な人がいるならば、いくらでも自分を変えることができると思う。
主人公はヒロインのように生きていくことを選んだ。
私たちにも自分を変える力は必ずあるのだ。
全ての偶然は必然であって自分で選んでいる。
自分の進みたい道をヒロインのように笑いながら歩いていってほしいと願う。
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