十八の夏の評価
十八の夏の感想
荒削りで、若々しい不器用さ
日常の謎ミステリーに属する本作品だが、その謎から紡ぎだされる人間模様がとても美しい作品だ。表題作の主人公は浪人生で、自分の存在そのものが社会の中から宙ぶらりんになったかのような錯覚を抱いていた。そんな彼の目の前に現れた、一人の年上の女性。青い春の時代に誰もが経験する、年上の異性への憧れがそこここににじみだして、ともすると恥ずかしい話になってしまいそうなところを、作者特有の、人の心にするりと滑り込む気負わない文体が、危うくも切ない終幕へと運んでくれる。読み手としても、本当は明らかになるはずのなかった秘密を知ってしまったようで、思わず息を潜めてしまう。ふっと心の隙間を埋めてくれる、素敵な作品だ。短編集の形式だが、表題作以外の作品も人間模様が美しい。