ミステリーの”祖” - そして誰もいなくなったの感想

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そして誰もいなくなった

4.754.75
文章力
4.00
ストーリー
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キャラクター
4.00
設定
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演出
4.00
感想数
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ミステリーの”祖”

4.54.5
文章力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

世界のミステリーの代表

アガサクリスティーはこれまでに無数のミステリー小説を出版してきた。品揃えのある大型書店などに行けば、その数が他のミステリー作家たちとどれくらいの差をつけているかが伺える。それはまさにおびただしい数だ。そしてそれらの作品はただやみくもに書かれたものたちではなく、言うまでもなくそのどれもが良作だ。そしてその大量の良作の中から最も多く読者に選ばれた作品がおそらくこの「そして誰もいなくなった」だろう。その数の多さからアガサクリスティの作品はしばしばランキングが集計されたり、その人気を計る機会が設けられるが、この作品はほとんどすべてのランキングに入ってくるだろう。そのくらいこの作品は世界中で愛されている。

ちなみにいうと私はアガサ作品をいくつかにタイプ分けしたときに、この手のタイプの作品はあまり好きではない。斬新でいい意味で評価が二分する「アクロイド殺し」や、鮮烈なトリックだけではなくてその作品全体の発想が面白い「ゼロ時間へ」など、アガサは本当にいろいろなアプローチでミステリー小説に挑んだ。中には実験的な作品もいくつかあったのだろうが、それでもクオリティは損なわない。

そういった意味で言うと「そして誰もいなくなった」は特に際立って斬新ということでも、トリックが予想を大きく裏切る展開だったということでもない。ではなぜこの作品がこれほどまでに愛されているのか、それを考えてみる。

クローズドサークルの傑作でありお手本

クローズドサークルというミステリー用語がある。ミステリー作品におけるある状況のことを指すのだが、外界から遮断された状況で物語が展開したり、密室殺人なんかがその例である。そして今となっては当たり前のように世界中でクローズドサークルのミステリー作品が作られているが、当時ではやはりこれほどまでにネタが多く出そろっていなかった。そういうことを考えると、当時では斬新さといった部分もあったのかもしれない。

ある無人島にあらゆる人間が集められる。序盤ではその人たちの人間関係についてはおよそ語られない。ゆっくりと物語は進行していき、いつしか緊迫感のある世界からの”完全孤立”した状況が出来上がっているのだ。読者も登場人物と同じようにその状況がいかに危機的なものであるかを実感していく。そして次に結末に目を向けようとすると、後半に向けてネタフリはしっかりされていて、"And then there were none."この物語の結末がいかに残酷な方向に向かっていくかという事が余計に緊迫感をあおる。クローズドサークルにおける一番重要なポイントである、”矛盾のない状況”と”緊迫感”が的確に表現されている。この辺りの技術こそ今となっては目新しさを感じられないかもしれないが、何を隠そうその礎を作ったのがおそらくこの作品だ。

現代ではしばしばこの設定に関して意義をとなえる人たちもいる。無人島に船で行くという状況で果たしてあそこまで外界と遮断されるか、ということや、その後外界と通信する手段があれほどまでにないものか、という点でだ。こういったことは解説でも取り上げられることがあるのだが、もちろんヘリコプターや携帯電話の存在など当時にしてみれば想像もつかないようなご時世であったし、そうでなくてもこの作品は十分に楽しめるものだったのだ。”矛盾のない状況”という点ではアガサのおかげで肥えたわれわれの目で見れば少し隙があるかもしれないが、状況の整理のされ方が芸術的であるということについては異論をはさむ余地はない。

いかにしてメジャーになったか

この作品がこれほどまでにメジャーになった理由として他にも挙げるとすれば、”ある種の異世界感”なんかも挙げられると思う。始まりこそ実在の地名などが登場するが、島に上陸して以降、そしてそこにある10体の兵隊の置物たちなど、この世の中から断絶されているような設定が非常に面白い。これはただ密室である男が錯乱状態に陥って周りの人々を殺していく(「シャイニング」のような)サイコサスペンスではない。あくまでミステリーなのだ。なぜこのような状況が用意されているのか、そしてそれが今まさに目の前にいる人間たちのうちの誰かの手によるものであるという設定がミステリーとしては重要なのだ。

それぞれのキャラクターを深く掘り下げているという点でも面白い。作品はしばしば主人公や被害者、加害者、探偵、など役割をもって登場させることが多いが、この作品ではどの登場人物もほぼ平等に掘り下げられ、またそれぞれが危機的状況にあるように見せかけている。これほどまでに客観的に物語を描いているのも実はオリジナリティがある。

この作品についてはどこがどういいかということをあげればきりがないし、作品が発表された当時に読んでいればまたどれほど面白かったかということを考えても惜しい気持ちになる。読み終わった後で、この作品の場合はこうだとか、あの作品に比べてこうだ、というように色々と論じられるという点も、アガサクリスティー作品の良さだと思う。

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