わたしを離さないでのあらすじ・作品解説
「わたしを離さないで」は、カズオ・イシグロによって書かれた長編小説である。2005年に発表され、同年のブッカー賞最終候補作品となった。日本では、早川書房より2006年4月に単行本化された。 この小説は、1990年代のイギリスを舞台に、ある特別な使命を背負って閉鎖的な寄宿舎で学生生活を送る3人の男女ルース・キャシー・トミーの友情・恋愛を軸にしながら、特別な使命により訪れる、過酷な運命を描いたものである。物語は、主人公の一人キャシーが大人になってから子供時代を回想する形で綴られている。 2010年、キャリー・マリガン主演で映画化された。映画の中では、小説でははっきりと言及されなかった、「使命とは、寄宿舎で生活する子供たちはクローンであり臓器提供のために生まれた」ことについて述べられている。日本では、2014年に多部未華子主演で舞台化された。
わたしを離さないでの評価
わたしを離さないでの感想
暗いリアリティー
前から気になっていたカズオ・イシグロ。この度、ドラマ化されたこともありネットで取り寄せ読んでみることにしました。ちなみにドラマは一切見ていません。感想は、暗い!それに尽きます。終始、主人公の一人称ですすめられる物語ですが、設定が設定だけに救いは一切ありません。どうしてこんなにタフでいられるのか分からないけれど、淡々としている主人公。だからこそ、主人公たちが置かれている状況の過酷さが際立っています。主人公キャシーと親友ルースのやり取りは秀逸!まさか男性が描いたなんて思えません。登場人物の中では比較的、わがままに描かれているルースですが、私は好きでした。臓器提供を題材にした作品の中では、 SFと分類される本作ですが、ファンタジーだからこそのリアリティーが確かにあります。私自身に臓器提供が必要になったとき、提供を拒むことができるでしょうか?私の大切な人に臓器提供が必要になった時に、提供と言う手段...この感想を読む
生きることの意味
時代や国、も不明、そして臓器提供のためだけに生まれてきたという主人公たちの設定が、一見突拍子もなく思えますが、最後まで読むと作者の強いメッセージ性を感じることができる1冊でした。将来の臓器提供を想定し、体を健康に保ち続けることが大切とされてきた、まるで家畜のような主人公たち。好きな仕事につくこともできず、子供を持つことも不可能とされ、彼ら自身が強く感じる場面はないものの、読む側としては彼らの生きる意味は何なのかと考えさせられます。そしてこのことは、現代を生きる私たちにも突きつけられている問題のように感じます。ただ職場と家との間を往復し、結婚や出産もままならず、何となく毎日が過ぎてゆく…果たしてそこに生きる意味はあるのだろうか、と。しかし作者は最後に彼らに生きる意味を与えます。それは人を愛することです。結局は失敗に終わりますが、提供の猶予の条件とされるのは真のカップルであることでした。つ...この感想を読む