ジョーン・スカダモアの改心は誰からも期待されていない
ジョーン・スカダモアはなぜラストで改心しないのか『春にして君を離れ』は、ジョーンの自己認識がどんどん変化してくるという作品である。ジョーンは最初自分のことを「良き妻」「良き母」であると思っているが、砂漠のど真ん中で立ち往生しているうち、次第に自分がしてきたことが他人にどんな風に受け取られていたのか認識を改める。クライマックスでは自分の行為を恥じ、家族(とくに夫であるロドニー)に対する申し訳なさでいっぱいになる。つまりはジョーンは自分を「善人」から「善意を装った悪人」であると自覚するのだ。しかし、結局イギリスに戻った彼女はもとにもどってしまう。つまりは自分の中の「悪い部分」を無視して、日常に帰るのである。この結末はどういう意味があるのか。ジョーンのような「自分の悪意に無自覚な」人間は、一時の気まぐれで自分の行為を反省しても、最終的に変わることはできないというクリスティの皮肉なのか。ジョー...この感想を読む
4.54.5
PICKUP