俺が見たかったのはこんなZだ!
目次
「刻の涙」めっちゃ見せられた
放送開始当時「君は刻の涙を見る」というナレーションをかっこいいな、という程度で見始めたが、中盤になってくると「刻の涙」ってもしかしてファーストのようなガンダムを期待しても製作者側はそんなものを作る気はないので視聴者が流す涙ってことか?と思い始めた。
感情移入しにくいカミーユ、戦わないアムロ、弱いシャア、前半はフラストレーションの連続だった。
1話でカミーユがMk-2に乗る動機に納得した人間は一人もいないだろう。アッシマーごときに苦戦するシャアにも誰もが違和感を覚えただろう。
しかし誰もが「ガンダム」なんだから、きっとここから面白くなるさ、と信じていた。そして香港でのフォウとの出会いから話は盛り上がり、彼女の犠牲を払ってシャトルで宇宙へ上がるカミーユに「来た来た!」と喜んだのもつかの間、やっぱりカミーユは気難しいし、シャアは弱い。
再びキリマンジャロでのフォウ登場で息を吹き返すが、そこからがまた盛り上がらない。
そんなわけでファーストからのファンはひたすら涙を流す。何故こんなことになったんだろう。
あの時、富野氏はもはや枯れていた
おそらく、ファーストガンダム、イデオンの両作品がピークで既に彼は製作者として枯れていたんだと思う。ザブングル、ダンバイン、エルガイムと微妙な作品が続く中、「ついに」というべきか「まさか」と言うべきかガンダムの続編として本作が始まる。
企画はダンバインの放送時からあったらしいがそんなことは視聴者にはわからない。ダンバイン、エルガイムの纏まらなさ、ぐだぐだ感からもはや富野は終わっている、と思った人もいたようだ。だが、「ガンダム」ならば、彼はもう一度やってくれるだろう、と皆信じていた。ファンにはそれほどに「ガンダム」と「富野」は一心同体に映っていたのだ
何故か無駄死にするキャラ達
しかし、である。多すぎるキャラたちはろくな見せ場ももらえず犬死していく。特にジェリド、カツがその筆頭だろう。ジェリドは最も長くカミーユと対峙したキャラだし、ライラ、マウアーという大事な人との出会いと別れも描かれている。更にカミーユが愛するフォウを殺すという大役も負っているので、どのようにでも成長やクローズアップさせることができたはずだ。シロッコなりバスクなりの代理として実戦MS大隊を率いるとか、バウンドドック専用メガバズーカランチャー(もちろん想像の産物)でラーディッシュを沈めるとか。
ここでたらればの話を敢えてするが、ヤザン・ゲーブルを出さずにその役割をジェリドに任せたら物語は非常にシャープになったのではないか?
そもそもヤザンの存在って必要なのだろうか?彼は人気キャラではある。だが「オールドタイプの戦場の強敵」という意味では成長したジェリドがその役に耐えられたはずだ。
そうすればエマに致命傷を与え、ラーディッシュを落とし、カツも殺すなど対カミーユへの憎悪で動くキャラとして随分存在感があったであろう。
とにかく富野氏の作品は無駄にキャラが多い。まとめる能力が無いんだからもっと絞ればよいのだろうが、誰も注意しないのか、しても聞かないのか、とにかく無駄だらけだ。キャラをたくさん出しておけばファンはどれかに食いつくだろう、というのはAKB商法的な考えだが、人数が多いほどそれぞれの個性が大事だ。富野作品の場合は人間性が見えにくいしキャラごとの見せ場を作らない。なのに出番だけある。だから厄介なのだ。戦争ものである以上登場人物が多いのは仕方ないが、主役やテーマを語る時間を確保するためにももっと整理すべきだ。
カツもひどい扱いである。ファーストガンダム登場キャラで最もひどい扱いと言えるだろう。自分勝手で思慮が浅く、実力はないのにプライドだけ高い。何故こんなひどいキャラにする必要があったんだろう?こういうひどいキャラでも何か役に立つことがあればいいけど、彼のエピソードは時間を取るだけで活躍も成長もほとんどない。そのくせ最終決戦のイメージシーンだけわかった風な口を利く。こんなことならアムロと一緒にカラバに残ってチョイ役に徹していれば良かったのに、と誰もが思っているだろう。
勝手に書き換える、これなら納得するZのラスト
ファーストガンダムの後半、アムロとララァの邂逅シーンで人が変わりゆくべき未来を誰もが垣間見た。しかし本作ではそのようなシーンは全く見られない。むしろニュータイプは単なる不思議アイテムとなり下がった。
どのシーンをおいてもシロッコがカミーユの精神を道連れにするエンディングはあまりにも人間の域を超えている。これはもう超人ロックとかの世界だろう。結局富野氏は「人類が変わるべき姿」としてのニュータイプを信じていないんだな、と誰もが落胆した。
ここで、2次創作的ではあるが勝手にラストを書き換えてみたい。
シロッコのジ・Oの猛攻でビームやグレネードランチャーを使い果たし戦闘不能に陥るZ。そこにハンブラビに乗ったジェリドが悪鬼のごとく襲い掛かる。
ジェリド「シロッコ、こいつには恨みがある。俺にやらせてくれ!」
シロッコ「うむ、ではZはジェリドに任せる。私はアーガマを沈める」
飛び去るジ・O。Zを援護するスーパーガンダムとラーディッシュ。しかし鬼神のごとく強力なジェリドに、なすすべもなく薙ぎ払われるガンダムMK-Ⅱ、Gディフェンサー、ラーディッシュ。カミーユは何もできないままエマ、カツ、ヘンケンを失う。
更にサイコガンダムMK-Ⅱにのるロザミアが飛来、カミーユがロザミィとして回帰を促すも失敗し、ジェリドの流れ弾でロザミアも致命傷を負う。
失われていく命の重さと自分の無力さに耐えきれず崩壊するカミーユ。
動きが止まったZにこれでもかと打撃を加えるジェリドのハンブラビ。押しつぶされそうになるコクピットの中で命の危険よりも星の美しさに目を奪われ、子供のような笑顔のカミーユ。
アーガマを必死に護衛しつつもモニターでカミーユの異常に気付き泣き崩れるファ。
しかしその時絶命するロザミアのサイコミュと感応してZのバイオセンサーがMax状態になる。光の中でフォウとロザミアに包まれるカミーユ。
カミーユ「フォウ、迎えに来てくれたのか」
フォウ「殺しあうだけがニュータイプじゃないでしょう、カミーユ」
ロザミア「お兄ちゃんは生きて、まだやることがあるから」
エマ「そうよ、みんながあなたが生きることを求めている」
オーラに包まれてジェリドのビームを跳ね返すZ。
ジェリド「なんだ?Zにこんな機能が、あったのか?」
しかし、Zのオーラの中にライラとマウアーが浮かび上がり錯乱するジェリド。
ライラ「ジェリド、この坊やに復讐するのはもうやめておけ。この戦いはお前の勝ちだ」
ジェリド「俺はあんた達を殺したカミーユを倒さなければ次に行けない!」
マウアー「あなたはもう、そんな小さな事にこだわってはいけない。バスクも死んだ。シロッコもカミーユが倒す。あなたのようなまっすぐな男が世界を作る必要がある!」
ジェリド「邪魔するな、カミーユを殺すのは俺のけじめだ!」
ライラ「お前は世界にとって必要な男だ。だがカミーユは平和のために必要な人間だ」
しかしライフルでZのコクピットを狙うジェリド。同時刻シロッコのジ・Oはアーガマに迫りつつあった。まさにファのメタスをシロッコのサーベルが貫こうとしたその時、うつろだったカミーユの瞳に光が戻る。
エネルギー切れだったはずのビームサーベルが長大化してジェリドの武装を瞬時に奪い、ウェブライダーに変形して飛び立つZ。
突然眼前に現れたZに戸惑うシロッコ。
シロッコ「Zはもう動けないはずだぞ」
カミーユ「分かるまい!戦争を遊びにしているシロッコには、この俺の体を通して出る力が!」
シロッコのあらゆる攻撃を跳ね返すZ。Zの周りにはフォウ、ロザミィ、エマ、サラ、カツが見える。
カミーユ「貴様のようなのがいるから、戦いは終わらないんだ。消えろ!シロッコ!」
ウェブライダーの体当たりでシロッコを倒すカミーユ。しかしZは再び沈黙し、カミーユの身を案じるファ。
その間にジュピトリスに帰還し兵権を掌握するジェリド。ジェリドはこれ以上の戦いは困難とみてエウーゴに和平を申し入れる。
ジェリド「ティターンズ全軍に継ぐ、もう殺さなくていい。もう死ななくていい。この戦いは終わった。兵を治めろ!」
収束していく戦いを見ながら、ライラとマウアーに語り掛けるジェリド。
ジェリド「これで、いいんだな、ライラ、マウアー」
ライラ「上出来だ。いい男になったなジェリド」
マウアー「ジェリドは最初から、いい男だ!」
Zのコクピットから生きて出てくるカミーユを見て喜ぶファ。このあとは劇場版のラストと同様。
これなら納得いくだろう!
とは言え実際のZはなんとも後味が悪い。これを境にアニメを卒業した俺たち
富野氏は本作終了後、ガンダムが好きな人はインテリのはずだからアニメばっかり見てちゃだめな人間になるよ、という趣旨の事を言っていた。彼の言葉通り、多くのファーストガンダムファンは本作でアニメを卒業した。
(正確に言えば本作に続くZZの第一話で「ああ、俺たちのガンダムはもうどこにもない」と思って卒業した)
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