作品ごとに違う感動が味わえる! - ビタミンFの感想

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ビタミンF

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作品ごとに違う感動が味わえる!

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

短編の作品力

短編の小説集となっているビタミンFは、直木賞受賞作だけあって、どの作品をとっても読みごたえのある作品に仕上がっています。同じ作者が書いている短編作品集だと、マンネリ化したストーリーだったり、パターン化された登場人物になっている事が多いのですが、重松清氏は様々な登場人物の視点から、いくつお話しを作り出しました。作家である前に人間なのですから、自分を通して登場人物を描きます。そうすると、やはり男性の見方が強くなったり、自分が考えている正論を押し付けようとする作品に仕上がってきますが、この作品集はそうではありません。どこにでもある家庭、夫、妻、子供達が、心の奥底に隠してある弱い部分や悲しい部分、いつもは見たくないと思っている心の奥底にある気持ちをさらけ出してくれるのです。読者に「そうだ、自分もこう思ってた」と感じると同時に、その気持ちをどうしたらいいのか?相手はどう思っているのか?などを模索しながら解決に導いてくれます。題名の通り、心に栄養を補給してくれる「ビタミンF]です。

 

「セッちゃん」の嘘に愕然となる

悲しい気持ちの表現をここまで上手くあらわした作品は始めてみました。人の悲しみは、大事な人が亡くなった時や誰かに裏切られた時など、いくつもありますが、セッちゃんでは、自分が苛められているのに、まるで自分が苛めている嘘をつきます。これほどまでに、切なくて悲しい嘘があるでしょうか?嘘というと嘘つきという悪いレッテルを貼られていますが、嘘がこれほどまでに人間の内面を深く表すことができると初めて知りました。嘘は悪い事かも知れませんが、人間の深さを構築する上ではなくてはならない存在なのだと思います。さらに、重松清氏は、セッちゃんの世界に読者を引きこんでいきます。学校の苛めというのをテーマとした作品は、テレビや本、映画などで何回も見た事がありますが、この「セッちゃん」の苛めが読んでいて一番辛かった。彼女の親ではないのだけれど、応援する気持ちにならずにはいられない作品です。

 

意外な落とし穴の「かさぶたまぶた」

「かさぶたまぶた」はとっても意外だなっと思った作品でした。自分ではちゃんとがんばっている中年男性なのに、あまりにもソツのない態度や行動に、子供や回りの人が心の底で、その人物を否定してしまうのです。自分は完璧、自分は何でもわかると思う事はある意味、鈍感な人間のなせる技なのかもしれません。本当に相手の気持ちを理解して思いやっていくのは、本当に難しい行動なのだと思いました。人は上っ面だけで、悲しんでない、苦しんでないと判断するのは危険なのかも知れないです。ただ、受験に失敗した大学生の息子が、飲んだくれて大暴れするところは、とっても面白かった。彼の本音って、こうだったんだ。なるほど、よく考えればそうだよなと、思う所ばかりでした。父親になると、俺は子供の事は何でもわかってると思ってはいけないですね。

 

なぎさホテルにては解決できたか?

私は女性なので、この主人公である達也には共感できませんでした。昔の彼女との約束を思い出してホテルに出向くなんて、まるでセンチメンタルな女のような男ではないでしょうか?しかも、その一方で、妻のする事にイライラし、こんな人生かと落胆する。いやな事があったら、全て人のせいにしてしまう夫。小説の中の登場人物ではありますが、このような男性はよく見かけると思います。男性の要素には、多かれ少なかれこのような要素が含まれているのかも知れませんね。でも、主人公の達也は、最後に自分がどんな存在で、今まで妻をないがしろにしていた事に気付くのです。ビタミンFの作品はどれも個性的で、テーマが違っていますが、気付くということが全ての作品のターニングポイントとなっています。問題を解決していく事も大切かも知れませんが、先ずは気づくというのがとても大切な事などだと思いました。ただ、最後がイマイチぴんときませんでした。果たして、こんな事で長い年月をかけてこじれた夫婦関係が回復できるのだろうかと思います。

 

男同士の親子関係

父親と息子とは、どんな関係が存在しているのかを考えながら面白く読むことができました。母親と息子は、成長していく中で数多く接しているので、ごく自然に関係が成り立っていきますが、父親と息子は父親といえどもあまり接点がないために、関係自体がちょっと不安定になっているのだなと感じました。確かに、何日も父親と息子が二人きりとなるシュチエーションってなかなかありませんからね。でも、主人公である父親が、不器用ながらにも息子に対して愛情をかけていくうちに、2人に信頼関係が生まれ、最後はお父さんと帰るからと、友達に告げられる堂々とした姿になんだか感動しました。父親も息子も、一歩大人になれたのですね。

 

読みやすくて引き込まれる

「ビタミンF」は、どれもあっという間に小説の世界に引き込まれていく作品ばかりだと思います。なかなか核心に辿り付けなくてイライラしてしまう小説がありますが、「ビタミンF」は、1ページもあれば、登場人物の気持ちと、小説の世界観がすんなりと読者に届いてしまいます。私は文章力の良し悪しは、あまりよくわかりませんが、重松清の書く文章の力は、すごいなといつも感じています。

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