化物になる主婦
京都、生命保険会社の世界に入り込める
私は、京都には観光で1度しか行ったことがありませんが、文章表現がうまく、街の雰囲気や人柄がにじみでおり、京都にいるような気分になり、旅行に行きたくなりました。また、主人公の努めている生命保険会社の世界のことも知ることができちょっとした勉強にもなりました。著者は、実際に過去に生命保険会社に勤めていたということも現実味が感じられた要因だと思います。保険金のようなお金が絡んでくる現場では、事件がたまに起きますけど、こんな度を超えた客も中にはいるのかもな・・・考えさせられました。
純粋な主人公の行動にハラハラさせられる
主人公が、少年の自殺を黒い家で発見して、これは殺人だと思った後は、事件の真相を知りたいがために、行動を起こします。菰田重徳の過去を追って、小学校を訪れたり、文集を心理学者の先生に見てもらったりと、真面目だからなのか好奇心が強いからなのかどんどん首を突っ込んでいき、真犯人に目を付けられ引き返せない事態へとなっていきました。また、感情が豊かなのか、昔の兄の死を自分のせいにしたり、それを少年の死にかさねたりと、人間描写が豊かに表現されています。幸子が犯人だとわかり、主人公の彼女が誘拐されたことに気づいてから黒い家に乗り込むときも、警察が間に合わないことを判断したうえでの行動でしたが、普通の青年なら混乱するような状況なのに勇気ある行動だと思いました。ラストの幸子とのビルでの出し抜きあいには、本当にぞくぞくさせられました。主人公のまっすぐさに化物と化した幸子はやられましたが危機一髪でした。
殺人犯の迫力に圧倒される
犯人の菰田幸子は、最初から、なんか影のある中年女性だなと思わせる書き方がされていましたが、中盤あたりまでは重徳ばかりが登場していたため目立ちませんでした。しかし、実は、人に対する観察力が鋭く狡猾で、狂気に目ざめた後の戦闘能力と言うか行動力は現実にこんな人間いるのだろうか・・・と思うほどすさまじいものでした。主人公の自宅をなぜか特定し、ポストをあさり郵便物を閲覧したり、家に入ろうとしたのは、特定の人への執念深さ粘着を表しており、現在のネット上での鬼女にも似通っているものがあると思いました。主人公に自分の力を見せつけ余計なまねはするなとメッセージを伝えるために、主人公の彼女の愛猫の首を切断したものを主人公宅の玄関に置き去るなど、行動力も抜群でした。包丁ひとつでこんなにも恐怖を表現できることに驚きました。
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