いい? あなたは母親に似て周囲に染まりやすい質なのよ
下田茂子
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美への執着心まずこの作品で出てくるキーワードの一つとして、女の「美への執着心」が挙げられます。フジコの実の母である慶子、友達の杏奈、そしてなりより主人公であるフジコなど、登場する女性たちは皆、少なからず外見の良さを追求していました。慶子は一家が貧しい時でさえ膨大なお金をかけ外見を磨いています。杏奈は常に美しく、隙のない女性でした。そしてフジコも裕也との交際から、「美しさ」への執着と強い憧れを抱き始めます。読者である我々は、特に主人公であるフジコから、外見の強い劣等感を感じさせられます。外見の美しさこそが女性にとって全てだとフジコは考えていました。それはやはり、杏奈との出会いが大きかったのでしょう。その外見の美しさ、経済的余裕、そして何より、裕也すらも彼女に奪われたフジコ。自分が美しくないから裕也は杏奈を愛したのか、美しくないから自分はこんなに卑屈で惨めな性格で、貧しい生活をしているのか...この感想を読む
表現力が上手過ぎて怖い恐怖を感じる一冊でした。殺人を犯す人間の物語ですが思わず共感してしまい、「早くこの人を殺せ」と思う個所が多々ありました。まず始めに共感を覚えて、早く殺されれば良いのにと願ったのが早季子の両親とKくんです。早季子の小学生にも関わらず、虐められて生きていくのがもうムリだ。という感情の描写が上手過ぎです。「わたしは蝋人形、おがくず人形」と繰り返される言葉も、この一文だけで何もできなくて無気力でからっぽな人間という表現が心底現れていました。コサカさんや裕也を殺した時の感情表現も上手過ぎると思いました。「うるさい、うるさい、死ねばいいのに」「だったら杏奈のところに行けばいいでしょ!」前後の言動と、たったこれだけの心情ですが、この人をホントに殺したいという感情がとても現れていました。イライラするのに止められない早季子がとった行動の中で、Kくんたちにいじめられ両親に虐待され学校...この感想を読む
イヤミスの女王、真梨幸子の出世作この作品で真梨幸子を知った読者は少なくない―。逆に言えば、それまでの真梨作品はほとんど鳴かず飛ばずで、文庫化する方が珍しいともいえるような状況でした。彼女のデビュー作は『孤虫症』。メフィスト賞をひっさげてデビューをしたのですが、あまりに常識の枠から外れている作風に審査員も読者も顔をしかめながら読んだものです。あまりにあけっぴろげに性を描いた本作は、エロというよりグロ。まさにメフィスト賞が求めている「究極のエンターテインメント」「面白ければ何でもあり」にはまった作家でした。しかし、デビュー作は全く売れず、その後5作品出版するも文庫化に至らず。デビュー6作目の『殺人鬼フジコの衝動』が、全国の書店員の推しにより一気に彼女をイヤミスの女王へとのし上げたのでした。書店員さんの応援2010年、湊かなえの『告白』が文庫化し映画化も果たし、世の中は一大イヤミスブームが巻き起こ...この感想を読む
下田茂子
後に殺人鬼フジコとなる幼少期の藤子が、自分を引き取った叔母から諭されるシーンの台詞です。 藤子は一家惨殺事件の生き残りで、母親から虐待されて育ったという背景があります。 作中でたびたび「子は親のようにしか生きられない」という台詞が登場します。 彼女が周囲に良い顔をしようとして破滅する未来を予言して繰り返されます。 この言葉に反発してもがく程、犯罪に手を染めていってしまう呪いの言葉なのです。