戦争犯罪と文盲
戦争犯罪の観点
この映画を戦争犯罪の映画として扱っているレビューがどのサイトを見ても多いです。戦争犯罪がここで主題にされていると錯覚しているのは、「戦争」・「戦争犯罪」・「ホロコースト」といった20世紀の中で最もショッキングな出来事がストーリーの中核を担っているからでしょう。それとも、すべての人がマイケルの側に立って映画を観ているからでしょうか。もし、マイケルの側から観るにしても、本質はハンナが恥だと思っている秘密を守るかどうかの一点に収束するため、やはりこの映画を戦争の問題とレビューするのは難しいのではないでしょうか。
恥とプライドの観点
ケイト・ウィンスレット演じるハンナが最もこだわるのは1点です。自分が文盲だと知られたくない、その一点なのです。素直に観るとすれば、昇進を断ってでも文盲だと知られたくない、刑が軽くなるのを断ってでも文盲だと知られたくないという傲慢な女の話です。統計によると、1940年代に8割以上のドイツ人が文字の読み書きができたそうです。そうなると、いくら当時女性のほうが教育レベルが低いからといって、読めることが普通・読めなければ恥だと感じてもおかしくはありません。
自殺の理由
最後に自殺をした理由ですが、ここではじめて戦争犯罪における罪の意識が主題に上がります。なぜ、収容所のカギを開けて全員を逃がさなかったのか「仕事vs正義」の葛藤がハンナを苦しめることになります。人類学者のエマニュエル・トッドはドイツ人と日本人が似ているとして、その権力や権威への従順さをとりあげています。自分の行為を客観的に見ることができたときにはじめて、自分の罪に気が付くことができ、それまでは仕事を遂行するために全力を尽くしているのです。
原作との相違
この映画には「朗読者」という原作がありますが、その中ではより二つのポイントが明確に判断できるような内容が含まれています。ハンナが田舎の出身者であることや、のちに文字が読めるようになったことで戦争犯罪について理解できるようになったとの記述がそれに当たります。「戦争犯罪」と「文盲」という二つのポイントを分けて理解することが本作の要点ですが、もちろん「文盲」であった=教育を受けていなかった理由は戦争も関係あるでしょう。統計によるとハンナの子ども時代だと想定できる1930年代のドイツは義務教育の普及率が70パーセントになります。これには当時のドイツの経済状況が関係していることは間違いないですが、その経済状況を作り出したのは紛れもなく戦争なのです。
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