心地の良い気色悪さ。 - 朝日のようにさわやかにの感想

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朝日のようにさわやかに

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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感想数
1
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心地の良い気色悪さ。

4.54.5
文章力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

図書館の海よりも好き

以前、恩田陸先生の短編集を読みました。「図書館の海」というタイトルで、私はミステリー小説を読み始めたばかりの頃でした。あまり感じない独特の雰囲気に戸惑い、説明不足で理解できずに雰囲気だけを楽しむに留まりました。以前はそうでした。しかし、今回の「朝日のようにさわやかに」という短編集ですが、タイトルを改めてなぞるとそれでいいの?と疑問に思うほどさわやかな内容ではありませんでした。ある意味爽やかであると主張する分には納得するのですが、なぜこのタイトルにしたのか、恩田陸先生のさわやかさがわかりません。朝日は季節によって異なるとは思いますが、よほど憂鬱でなければ、まあ気持ちの良い日差しに夜冷やされた空気を新鮮に感じることはあるでしょう。しかしこの作品たちは短い世界に濃厚に詰められた内容の中を生きています。それは真夏のうだるような暑さやしんしんと冷え込む冬など極端な雰囲気を持っています。ひとつひとつの物語がまるで奇妙で、個性的で、さわやかさを保ってはいない。味わい深さを重視して体に悪いものを摂取している感覚に近かったです。あと読んでいて思ったことは、中島らもさんの作品に似ている、ということです。私だけかもしれませんが、世にも奇妙な物語でも中島らも先生の作品は映像化されていますし、奇妙さが似通っているんです。決して青春さわやかハッピーエンド!で終わるわけではなく、続きがありますよ、しかもなかなかに危険で結果は見えていますよ、という語りかけで終わっている。どうにも恐怖に魅力を感じさせる結末の作品が多いこと。短編の醍醐味としては読者も作り手側に回れるということだと勝手に思っています。その誘導の仕方が露骨ではなくあまりにも自然で、作品の世界に入り込んでしまう、その奇妙さが、さわやか、ではあるのかなあと。

冷凍みかん

年々夏の主張が強くなり、梅雨の季節は地獄だなあとお天気に勝てない人類の小ささを実感しております。小学生の頃、給食のデザートでよく出てきたのが冷凍みかんでした。懐かしいです。今は知覚過敏で食べにくくなってしまって縁遠くなったのですが、この作品のように再び冷凍みかんが目の前に現れたらどうしようととり越し苦労をしています。冷凍みかんは地球なんですよね。冷凍庫で必死に溶けないよう守ってやらないと、最後のシーンでは南極の氷がものすごい勢いで溶け始めているという説明文で終わっていました。これは警察の方々、もとい第一発見者の方に早急に守っていただきたい。本当にそう思いました。完全に作品の世界にのめり込んでいるのですが、自分がその場に居合わせられなかったことを本気で悔しく思いました。そこでまず気になったことあります。この冷凍みかんはどこでいつ作られたものなんでしょう。宇宙人?未来人?科学者?錬金術士?わからないのです。昔から受け継がれた冷凍みかんは物質も現代のものではなく到底作り得ないものでした。何の目的でこの冷凍みかんは存在するのか。もはや宇宙規模の話なのではと短編であるからこその妄想を繰り広げ、私の結論はラジコンのコントローラーのような役割をしているのが冷凍みかんなんだ、と。動かされるのはもちろん地球。冷凍みかんを壊そうが溶かそうが、手にした人物の自由。それでは、地球と連動している因果関係を解消すれば、冷凍みかんがどうなろうと地球に影響しないということになり、そのためにはどうしたらいいんだ、というところで力尽きました。同じように考えた方もいらっしゃると思うので、何か空想でも科学的根拠でもいいので説明してくださればと思います。恩田陸先生はどう思っていらっしゃるんでしょう。それもまた興味深いです。

ラジオパーソナリティ

「あなたと夜と音楽と」という作品ですが、ラジオパーソナリティの二人がラジオを放送している収録現場が舞台です。二人は女性と男性なのですが、私はてっきり女性が犯人だと思いました。これは恩田陸先生の文章に踊らされた結果だと読み終わってから悔しくなりましたが、女性が怪しいと匂わせておいて、しかし、その怪しい行動は男性にボロを出させるためだったんだと気付いた時、私もその場に居合わせたかのような錯覚を覚えました。ぞわっと鳥肌が立ちました。どんでん返しとはこのことなのだろうと、自分が信じかけていた男性が実は二人も殺めてしまっているとは恐ろしいことです。男性が戸惑って取り返しのつかない発言をするまでじわりじわりと追い詰め、ラジオで流す曲順も心当たりがあれば気がつくだろうとすべて巧みに作戦が練られている。ここまで頭が回るなんて、恩田陸先生の発想力はすごいなと改めて思いました。想像力がすべての作品において全力で発揮されていると思いますし、臨場感もただ事ではない。窓ガラスに石が投げつけられるシーンは想像すると夢にまで見そうで、この短編集を読む時はあまりのめり込まずに読もうと途中から読むスタンスを変えた程です。実際にあってもおかしくない事件が何気なく書かれていて、読んでいて肌身に感じる恐怖はとてもリアルでした。(他にもミステリー要素のもの、ホラー要素のもの、それぞれ分類は難しいのですが、短くて読みやすい作品が多く、今回は割愛させていただきます。)

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