だめだめな人々がまんまと切り抜けちゃう面白さ
どこまでも王道なコメディを真摯に貫く
2012年作品。矢口史晴監督の9作目に当たる本作も、矢口監督らしい、小難しいことは何も考えず、子どもも一緒に楽しめるドタバタ喜劇です。いつもの矢口作品同様、今作もとにかく何にも考えずに笑おう、笑いに行こう、というかんじで楽しみました。
全ての映画作品を監督する際は脚本も手がけ、しかも多作な矢口監督だけれど、何より見る人をにっこりさせる心楽しい、どこまでも王道なコメディを真摯に貫く姿勢がすごいなあと思って見ています。人を笑わせるために、作り手も楽しみながらも、どんだけうんうん唸って、頭をひねり、脂汗流してやっているんだろう、という試行錯誤の手触りが体温のように感じられて、楽しく見ながらいつも応援したい気持ちにさせられます。第一、今の世の中でこんなあっけらかんとした朗らかな笑いを届けてくれる映画監督を大事にしないでいい訳がないです。近作は小説「神去なあなあ日常」を映画化した「ウッジョブ!」ですが、これも大変面白かった!これからも楽しみに新作を待ちたい監督のひとりです。
「相当だめだめな人」だらけの矢口映画の笑い
矢口映画に出て来る人々には、すごい人があまり出て来ません。というか、「人としてかなりだめだめな人」で構成されている割合がとても高いです。多くのフィクションにおいては、観客は登場人物の誰かしらに自らを重ねる訳で、恋愛をテーマにした映画でも、正義を貫くようなテーマの映画でも、あるいはアニメーションでも、中心となる登場人物においては、見た目も人間性も「ちょっと(時にすごく)高く見積もった」ような人物設定がなされることがままあります。
けれど矢口作品においては、メインのキャラクターたちはいずれも「すごく身近に感じる、でもさすがにちょっとこれはないよなー、自分はこれよりはマシだよな」と思えるくらい、怠惰で不潔だったり、優柔不断で何も決められなかったり、どこまでもとんちんかんだったり、ふわふわぐらぐらしていたりするわけです。なので、上から見下ろすような視線というのは常になくって、常に格好悪いのをさらけ出し、笑ってもらうという芸風。それゆえ「いじわるな感じ」がどこにもないのです。
「ロボジー」では、3人の木村電機ロボット開発部のでこぼこトリオがいて、ロボットオタクのおっかけ女子大生がいて、さらに主役はいやに堂々とした扱いにくいポンコツ老人という、やっぱりかなりだめだめな人たちばっかりです。作品の性格上、「いるだけで笑える」人々であることが重要なので、キャスティングも絶妙でしたし、監督の企みはとても成功していると思います。
特に吉高由里子のかわいいながらも変態っぽいかんじ、良かったです。目の下の黒すぎるクマでおどろおどろしく迫るシーンなんかは、ちょっと他の可愛らしい女優さんたちには見られない「振り切れ感」がありました。本人も面白がってやってるんだろうな。
そして主演の鈴木さん(矢口監督の作品の主人公は常に「鈴木さん」なのですが)を演じたのが、「ミッキー・カーチス」さんだったとは、うかつにも見終わるまで気がつかなかったです。もっとも、この作品では「五十嵐信次郎」という名でクレジットされています。昔はハーフって苛められたので、いかにも日本人、という響きのこの名前を子どもの時に心の中で作っていたのだそう。それを晴れて日本のおじいさん役者さんとして使うことになったと。
もうこの年になると、日本人もハーフもないですね。もともとロカビリーの人気歌手だった面影はまるでなく、映画の始まりから、老人の学芸会出演、しかもみっともなく失敗というシーンに始まり、ステテコ姿によれよれの白ブリーフに半ケツまで、もう怖いものなしの老人っぷり。これを何の躊躇も無く、思い切り良くやってみせるミッキーさん、すごいと思いました。
そしてどこにでもいる冴えないおじいちゃんという設定なんだけれど、やっぱり何か「おっ」と思わせる堂々としたかんじがあること、思い切り調子に乗って悪ノリするのをロボット開発部の誰も止められない有無を言わせぬ威圧感と不良性というのは、ミッキー・カーチスならではの持ち味なんだろうなと思います。
科学の最終形は「よぼよぼのおじいちゃんができること」ができること!?
そして、けして説教臭くはないですが、「ウッジョブ!」などと同様、この作品のモチーフにも社会に対するアンチテーゼというか、風刺がうまいこと盛り込まれていると思います。
人間が技術の粋を結集して目指した最終形が、「ふつうのよぼよぼのおじいちゃんができることを見せる」という皮肉に笑わされます。最初から観客には種明かしがされているので、みんながそれらしく感心したり、感動したり、小難しい事を言ったり、盛り上がってミーハーになっている様を、ばっかだねえ、と観客が笑って見ているという図式。
ロボット開発部の面々が、結構「やばい」「ばれそう」な場面に遭遇しても、わりに簡単に切り抜けてしまって、賢そうに振る舞っている人間が結果的に最後までまんまと騙されてしまいます。結構そんなもんだぜ、という感覚があって痛快です。ラスト、最後の身代わりロボットを窓から落っことすという落としどころは、ちょっとしたトリック仕立てになっていて、しかもどこにも違和感が生じないように相当苦労したんだろうな、と感心して見ました。
結局また鈴木さんに頼るというだめだめなかんじで終わっていくところ、にんまりと笑う鈴木さんのアップがラストショット。どこまでも肩の力が抜けていて、らしいなーと思いました。
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