馬鹿げた自由な映画 - オンリー・ユーの感想

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馬鹿げた自由な映画

3.03.0
映像
2.5
脚本
2.0
キャスト
5.0
音楽
3.0
演出
2.0

目次

ど馬鹿げた展開

幼い頃のシーンから始まる冒頭はなるほど、なるほどその名前がキーとなって物語が展開するのだとわくわくさせられる。そして、大人になった主人公はやや痛々しいが、結婚に対して不満感を抱えている描写は繊細で、また兄嫁も結婚生活に悩みを抱えていることが見え、物語としてこの二人がどうなっていくのか気になる冒頭であった。なにより「運命の人」というアイテムと現在置かれている状況は、物語の構造的に面白い。それだけに一本の電話後の展開はまさかこんな馬鹿げたストーリーになるとはと言った感じにがっかりさせられた。

まず、第一に常識的に考えて主人公の行動は可笑しすぎる。いくら頭が弱そうとはいえ、あの年齢にもなってあんな行動に出るものだろうか。アニメーションの可愛いおとぎ話ならまだしも、実写であんな行動心理を実行されては正直かなり痛々しい。空港の係員が「可笑しな人がいるもんだ」といったセリフにはまるで、観ているこちら側の気持ちを代弁してくれているようで、そのセリフがあって初めて狙ってやっているのか、とやや納得しかける。しかし、その後も主人公の暴走は止まることを知らないので、終始観ているこちら側は突っ込みをやらされる羽目になる。

そしてそのうち常識人よりだった兄嫁もイタリアの変な男にまんまと誘惑され始めて、完全に常識という枠は崩壊を迎えてしまう。イタリアという異国がそうさせる、旅をさせるといった展開かもしれないが、日本人的感覚では受け入れがたいものを感じる。数多くの作品でイタリアは軽い国として描かれているお国柄ということから鑑みれば分からなくもないが、あきらかに軽すぎて、イタリアに対して失礼な気さえもする展開である。さらには、ローマーの休日のパロディーを入れたりして、てんてんこまいである。

主人公に近づいた男がその一つの名前を利用して嘘で近づいたり、その名前を他の人に名乗らせ、自分の株を上げるために利用したりしたという展開には、「名前」というアイテムを存分に遊べていて面白いのだが、どうしても主人公が馬鹿単純すぎて、無理やり感を感じてしまう。「名前ではない、人に示された運命ではなく、自分で切り開いた運命を選ぶ」というような結論に至るラストは最早見え透いている展開で意外性もない。ただ本当に最後までとんでもないひどいものを見せられた気になる。

ここまで散々けなしておいてあれだが、逆にこの映画をその構造の面白さに期待などもせず、そして頭を使わずただ観るにはひどい映画ではなくなる。なぜなら、ここまで馬鹿げていると人間は笑うしかないなと、自然と笑って観られるもので、ただ笑うためにはいい映画であるのだ。お金を払ってみたいと思うほどの素晴らしいコメディーではないが、なにかの節に気楽に見るには丁度良い映画である。数々のバラエティを演出した監督が手がけたことを知ると、これはこれで狙ってただ笑える作品を作ったのではないかと思え、ひどく馬鹿げた展開であったが、憎めない作品であった。

キャスト様様

ここまでひどい展開の中、なんとか体裁を保っていたのはキャスト陣の力が大きい。馬鹿げたこの展開を辿る役を皆、一生懸命に演じていらしており、その甲斐あって嘘くさくなくこの世界が成立していたのであると思う。

まず、主人公のマリサ・トイはあのプロモーションが魅力である。あのドレスを着こなす姿は女性として憧れるし、やはり美人だからこそ馬鹿が許される。その点を理解したうえで彼女は自分の綺麗に魅せれる部分をきっちりと魅せている。恋する姿も嘘がなく、純粋なキャラを曇りなく演じられている。そして、相手役のロバート・ダウニー・Jrに関してはこの役者がこんな役もやっているのかと驚かされ、そして演技力もさすがだなと感じた。

また、兄嫁のボニー・ハントは個人的にこの映画では一番良かったと思う。まず冒頭で魅せた悲哀感が何とも言えずにいい具合である。そして、馬鹿な主人公に対して姉分的な雰囲気を出したり、イタリアの男に言い寄られてもいいかと弱さを出したり、色んな人間味を出せていた。その一つ一つがその女性を象るものとして、役を存分にこなしていたと感じた。

この時代の映画と現在の映画

この映画を見て思ったのは1994年という時代を感じたということである。これがどの程度ヒットしたのかは分からないのでこの時代を称する映画とは言ってはならないし、言うつもりもない。ただ、こういった映画が作られたり観られていたりした時代であったのだということを思う。現在よく耳にするのは「物語は語りつくされた」ということである。その言葉から考えて、このシナリオは語りつくしてない時代のもので、とてもシンプルなのである。現在はその語りつくされた物語を如何に新しく魅せるかと、堅苦しい理屈を入れ込んだり、意表をつくような展開を入れ込んだりと苦労がある。しかし、この映画にはそういった苦労がない身軽さがある。その身軽さはある種の自由といったものを感じ、時代の明るさを見ているようでもあると思った。

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