戦後の混乱からの強いメッセージ
戦後2年ほどの日本の混乱の中で、米国人牧師を有力被疑者とするキャビンアテンダント女性の殺人事件が発生。女性がミニスカートをはいて、男性から自立して働くことにも賛否両論あった時代でしたし、また、GHQの統治がいまだ尾を引く日本の中で、世間の価値観や法治国家としての日本の歩みが、大きく揺れ動き変わっていくという社会背景の中、松本清張が得意とする時間のトリック、しぶとい初老の刑事がそれを地道に照明していく様子など、一コマ一コマが非常に丁寧に描かれています。
結果として、米国人牧師は、教会、ひいては世界中から守られ、日本国家に逮捕されることは無く、当時の日本警察の無力さと無念さがにじみ出ています。
また、女性の遺族も、米国人牧師と深い仲になり、倫理観や貞操観念の問題にさらされて、傷つき、味方であるはずの親類、ひいては国内から批判を浴び、嘲笑にさらされるなど、過酷な事件後も心が痛みます。
捜査の過程をつぶさに追っていく警察小説でもあり、犯人を特定する推理小説でもあり、また、当時の社会の問題を提起した社会派小説でもあったこの作品は、戦後の日本人のアイディンティの確立に大きな影響を与えた(あるいは、日本人のアイデンティティの確立・揺れ動きを見た清張の作品となりえたのか、どちらが先かは不明だが)のは、間違いないでしょう。
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