あるひとりの女性の復讐の物語を特異なプロットの中で展開し、人間の心の中の闇を通して法の限界、裁判制度の矛盾を抉った松本清張の「霧の旗」
何度も映画化、TVドラマ化された松本清張の社会派推理小説「霧の旗」は、特異な女性の魅力を描いた復讐の物語だ。この復讐は、物語のオーソドックスなパターンのひとつであり、とりたてて珍しいものではありません。だが、この作品で描かれる復讐譚は、どこか歪み、ねじ曲がっている。そこにこの作品の特異性があるのだと思います。強盗殺人で逮捕された兄は無実です。どうか助けて下さい-------。有能との評判を聞き、九州から上京したタイピストの柳田桐子は、兄の正夫の弁護を依頼すべく、大塚欽三法律事務所を訪ねます。しかし、愛人の河野径子との逢瀬に気のはやる大塚は、高額な弁護料を主な理由に、これを断わります。一度は引き下がったものの、尚も電話で訴える桐子。その声を耳に挟んだのが、総合雑誌「論想」を出している論想社編集部の阿部啓一だった。興味を惹かれ、桐子から話を聞いた阿部は、正夫が犯人だとされた九州のK市の金貸し老婆撲殺...この感想を読む
4.04.0
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