ゼロ年代のマクロスシリーズ
新たなマクロスシリーズ
『機動戦士ガンダム』に遅れること3年。『超時空要塞マクロス』のアニメ放送が始まった。
『ガンダム』のように常に人型ではなく、主に三つの形態を持つ可変戦闘機のバルキリー。それに乗るパイロット。そして歌姫。三角関係。この四つのコンセプトを軸に25年の歴史を迎えたマクロスシリーズの、25周年記念作品が『マクロスF』だ。
バルキリーに乗るパイロットの主人公・早乙女アルト、歌姫・シェリル・ノームとランカ・リー。アルトとランカ、シェリルの三角関係、とマクロスシリーズのコンセプトを踏襲しながらも、『マクロスF』は若い世代を中心に人気を博した。
神曲ばかりのマクロスF 作曲家・菅野よう子の神髄
『マクロスF』で、まず取り上げなくてはならないのが、作中随所に挿入される楽曲だろう。
シェリルの歌を担当するMay'n、ランカの歌を担当する中島愛(中島愛は声優と兼任)の二人が歌う曲が、物語上での重要なファクターとなる。『マクロスF』だけでなく、マクロスシリーズは常に歌がキーポイントとなるぶん、楽曲もハイレベルなものが求められる。
そういった点で、菅野よう子の起用はベストだった。『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊』『創聖のアクエリオン』に楽曲を提供している菅野よう子の実力は、アニメに関わる人間・アニメ好きな人間なら誰もが知るところである。
音楽がキーとなるマクロスシリーズでの起用、名作アニメでの楽曲提供の経験。多くのプレッシャーを跳ね除け、菅野よう子は見事期待に応えた。
『ライオン』『ダイアモンドクレバス』『トライアングラー』『星間飛行』…菅野よう子の作った劇中歌は、もはやハズレなしといえるほどに名曲揃いだった。これら楽曲は劇中に挿入されるだけなく、オープニング・エンディングにもたびたび起用され、”1シーズンのオープニング(エンディング)アニメーション・楽曲は基本的に同じもの”というアニメの常識を打ち破った。
特に『ダイヤモンドクレバス』や『妖精』、『アナタノオト』などは、ヒロインたちの物語中の心情を切実に訴えるものであり、言葉に出来ない気持ちを伝える歌としての役割を十二分に果たしたといえるだろう。
個人的な話になってしまうが、筆者は『妖精』がお気に入りだ。ランカ人気に押され、落ち目になったシェリルの心情を表現する曲としては最高のものだと思う。
このように、好きな曲一つで語れるのも『マクロスF』ならではといえるだろう。
読者諸兄は、『マクロスF』で一番好きな曲はなんだろうか。
ストーリーとキャラクターにやや好みが分かれるか
以上のように素晴らしい楽曲が物語に華を添える『マクロスF』。
だが、アニメとしての評価は意外にも意見が分かれている。筆者も正直、歌と映像以外の部分で『マクロスF』の見どころを上げるのは難しい。
欠点の一つには、主人公に魅力がないという点。早乙女アルトは空を飛ぶことを夢見る美少年という立ち位置だが、正直、ヒロイン二人がほれ込むような魅力があるようには思えなかった。
パイロットとしての実力があるのかないのかもはっきりせず、敵性生物・バジュラを相手に生き残ったのは奇跡的としか思えない。もう少し作中で主人公としての成長を取り上げれば話は別だったのだろうが、ヒロイン二人に比べてあまりにもアルトの見せ場が少なかったように思う。
ミシェルは、ランカを一度冷たく突き放した割にはあっさりと認めていい人ポジションに収まってしまうし、ルカは職場上では後輩であるアルトを「先輩」として扱いすぎている。命のやり取りをする戦場で、これには少し違和感を覚える。
もう一つの欠点が、一話くぎりのストーリーとしてエピソードを納めすぎている、という点だ。
アニメの一エピソードを一話きっちりに収めようとすると、20分程度の放送時間のなかに起承結全てをはめ込まなくてはならない。
日常アニメではそれでも十分なのだが、バトルアニメはそれではいけない。
『創聖のアクエリオン』シリーズもそうだが、主人公たちが何かトラブルを起こし→解決する間もなくバトルへ→戦いのなかで答えを見出すという流れがあまりにも多すぎる。これでは敵は噛ませ犬の役割しか果たせず怖さも強さもなくなり、キャラの悩みも「あぁ、そんなに小さなものだったのか」と思えてしまえるため、かえって物語のスケールが小さくなってしまうのだ。
しかも、各話ごとにキャラの行動に一貫性がなくなり、前述のミシェルのような矛盾が生まれてしまう。結果として、視聴者はキャラクター像を掴めなくなり、そのキャラを好きになることもなくなってしまうだろう。
こういった問題点を抱える『マクロスF』だが、やはり映像美と楽曲は圧巻で、見る人間を選ばない完成度を誇っている。
批評が多いのも視聴者の分母が多くなる人気アニメならではで、仕方のないことともいえる。
2016年2月現在、最新作『マクロスΔ』の情報が少しずつ明らかになってきた。
前作『マクロスF』を超える出来であるか、今から注目したい。
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