人間椅子のあらすじ・作品解説
人間椅子は江戸川乱歩が1925年(大正14年)に大衆雑誌に発表した短編推理小説である。 江戸川乱歩は二銭銅貨で日本初の本格探偵小説の書き手として文壇にデビューしたが、大衆からは当時はあまり支持されずに、この作品のような幻想的・怪奇小説に分類できる変格ものと呼ばれる小説のほうが好まれていた。 作品のあらすじは、ある女流作家のもとに謎のファンレターが届くことから始まる。そのファンレターには、未知の相手である「私」の犯した罪悪の告白が書き込まれており、さらに日をおいて次の手紙が届くようになる。その手紙の内容は「私」の仕事は家具職人であり、自ら作った椅子に潜むことで言い知れぬ快楽に包まれているという告白文であった。 1997年4月19日に主人公役に清水美沙、2007年6月30日に主人公役に宮地真緒で映画公開された。テレビドラマとしても、1970年、1984年、1994年、2004年に、江戸川乱歩のシリーズ物の中でたびたび取り上げられている小説でもある。
人間椅子の評価
人間椅子の感想
独特の世界とミステリ風味
江戸川乱歩はトリックだけでなく、独特の感覚で作り上げられた世界が魅力でもあり、また欠点でもあります。この表題作はまさに乱歩の持ち味がいかんなく発揮されていると言っても過言ではないでしょう。「ミステリ」という言葉から連想される普通の刑事ドラマなどではなく、主人公がとある女流作家に手紙を送り、その内容が書かれているのですが、その独特の情念と異常な感覚が肝になっています。簡単に言えば椅子に潜り込んで、上に座る人間の感触を味わうという一種の倒錯した世界です。これを独自性の発露と取るか、気持ちの悪い変質的なセンスと取るかは各人しだいです。しかし乱歩の真骨頂と思えるのはラストでしょう。ただの特異な作品と思わせておいてミステリ的な落ちは忘れてはいません。毀誉褒貶はあれ独自性のある作品なのは確かです。
ドロドロしている……
最初に読んだ感想としてはそんな感じでした。現実でももしかしたらできないことはない?かもしれないことがことが怖いです。たんたんと手紙を読んでいきそこに書かれてあることが身近で起こっているかもしれない恐怖。「人間椅子」そしてその他の作品では殺人のようで殺人ではないような「毒草」一風変わった恋愛ものが楽しめる「木馬は回る」狭い箱に入ってしまい出られなくなり死の恐怖を感じてしまう「お勢登場」はたしてこの短編集に収まっている作品はどういう風に展開していくのか?江戸川作品をあまり読んだことのない私は充分に魅了されてしまいました。なにか心に蠢いてくるようななにかを感じる短編集となっています。
幻想で怪奇なホラー
江戸川乱歩の作品で初めて読んだ作品です。乱歩の作品は人間の恐さ、不気味さ、がよくあらわれていて思わずぞくっとさせられます。椅子の家具職人である「私」は自分の椅子にどんな人が座っているのかが気になり、椅子の底に出入り口のふたを作って椅子の中に入り込む。椅子に対する異様な執着心というか、妄執というか、愛、とは別の人間性を感じラさせられます。だからホラーで、そこが奇妙で恐ろしく感じられるのでしょうね。それを手紙という形で描き出す、乱歩の話の構成にもはっとさせられます。手紙の中の文章であるから読者も手紙を送られた佳子と同じ気分で読み進められるのでしょう。乱歩の工夫が感じられます。