日の名残りのあらすじ・作品解説
日の名残りは1989年に出版されたカズオ・イシグロの小説で、同年にイギリスの文学賞であるブッカー賞を受賞した。 物語の主な舞台は20世紀前半のイギリスで、執事スティーブンスの視点から物語は語られる。 スティーブンスはダーリントン卿の下で長年執事として働いていた。だが、ダーリントン卿の死後売りに出されたダーリントンホールは他人の手に渡り、今では彼は屋敷を買い取ったアメリカ人富豪のファラディ氏に仕えている。小説の冒頭は1956年、スティーブンスが今の主人から短い休息をもらい、旅に出るところから始まる。 旅の目的のひとつは、昔ともに働いた有能な仲間、ベン夫人をスカウトすること。少し前に彼女からは昔を懐かしむような手紙が届いていた。人手不足に悩まされていたスティーブンスは、ベン夫人が戻ってくれれば屋敷を切り盛りできるのではないかと考える。 旅をしながら、スティーブンスは元の主人や昔のスタッフと分かち合った、ダーリントンホールでの出来事を思い出していく。
日の名残りの評価
日の名残りの感想
一執事の視点から見る大英帝国の黄昏
大英帝国の黄昏カズオ・イシグロの長編小説『日の名残り』は、イングランド南部を舞台に、第2次世界大戦後からスエズ動乱までの期間を、貴族の屋敷に執事として務める主人公スティーブンスの語りで描いた物語である。すなわち100年以上世界一に君臨したイギリスが、その座をアメリカとソ連という新たな超大国に明け渡した時期、大英帝国の黄昏時を、帝国の象徴たる貴族に仕えた執事の視点で描いた、大英帝国の衰亡史とも言える内容である。故にこの小説を本当の意味で楽しむには、イギリスの歴史の知識が必要であろう。イギリスは、18世紀末から19世紀の産業革命期を経て、多くの海外植民地を獲得し、ヴィクトリア女王の治世(1837〜1901年)において、政治・経済共に世界一の国として繁栄した。帝国の威光を国民は享受し、貴族、中産、労働者の3大階級が生まれるなど、現代にもつながるイギリスの根幹が出来上がった。しかしながら2つの大戦を経て、帝国の威...この感想を読む
ノーベル賞作家カズオ・イシグロの1989年度のブッカー賞受賞作品「日の名残り」
1956年7月。35年もの間ダーリントン卿の家に仕え、ダーリントン卿が亡くなった今は、新たにダーリントン・ホールを買い取ったアメリカ人・ファラディの執事となっているスティーヴンス。父親の代からの執事であり、執事としての高い矜持を持っています。しかし、多い時には28人の召使がいたこともあり、スティーヴンスの時代でも、彼の下で17人もが働いていたというダーリントン・ホールには、現在スティーヴンスを入れて4人の人間しかいません。スティーヴンスは仕事を抱え込みすぎ、その結果、些細なミスを何度か犯していました。そんな時に思い出したのは、ダーリントン卿の時代に女中頭としてダーリントン・ホールに働いていたミス・ケントンのこと。結婚して仕事をやめ、ミセス・ベンとなっている彼女は、今はコーンウォールに住んでおり、先日届いた手紙では、しきりにダーリントン・ホールを懐かしがっていました。ファラディがアメリカに5週間ほど帰...この感想を読む
英国執事はを知るには丁度良い!
89年にブッカー賞を取った秀作カズオ・イシグロの日の名残り。ペーパーブックで読んでみたと記憶しています。英国の貴族と典型的な執事の生活様式と思考、そして、過去の物語なので、詳しくないため、先に映画を見てみました。ジェームズ・アイヴォリー監督、主演アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソンで、アカデミー賞に8部門にノミネートになりました。美しいイギリスの邸宅でくりひらげられる密議を眺める執事の視点から、第2次世界大戦の時代が描かれています。戦況につれて、ナチス・ドイツにだんだん巻き込まれていくダーリントン卿の阿鼻叫喚を黙って見守る頑な態度は、圧巻とさえ言えます。部下のミス・ケントンの淡い恋が、映画全編を覆う重苦しい感じの唯一の救いとなっています。英国執事語を学ぶために、一度、英語か日本語で読んでみることをおすすめします。