悪人の感想一覧
吉田 修一による小説「悪人」についての感想が5件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
今、私たちが生きる日本のリアルを浮き彫りにし、単純な事実の中に複雑な人間の真実を見すえた 「悪人」
吉田修一は芥川賞を受賞した小説家だ。つまり、いわゆる純文学の作家であって、この小説「悪人」も、ジャンルとしてのミステリー小説ではないと思います。にもかかわらず、純文学と娯楽小説の境界を超えたところで、クライム小説として素晴らしい作品になっていると思います。作者の吉田修一自身にとっても、彼の最高傑作と呼ぶべき作品になっていると思います。事件は月並みな殺人事件である。福岡県と佐賀県の県境の峠で若い女性が殺される。この峠は、幽霊が出るという噂があるので、ホラー的な方向に進むかと思いきや、むしろ怪談じみた趣向によって、逆にこの殺人事件のありふれた安っぽさが強調されることになる。被害者の女は保険外交員で、出会い系サイトで複数の男とデートを重ね、売春まがいの行為も抵抗なく行なっていた。何という月並み、何という安っぽさだろう。だが、吉田修一はその月並みを見事に描き上げる。この絵に描いたような安っぽさ...この感想を読む
胸が痛くなる最高傑作
どこまでも切ない切ないヒューマンドラマ。祐一が、おとなしいのに金髪に染めてて、女性の扱いが上手くて、素朴で、そんな彼だから、人を殺してしまったということが、もうどうしようもない罪を犯してしまったということが、胸が千切れそうなくらいせつなくて。一人の人間を死なせるっていうのはすごく大きな重い重いことなんだな、と。いろんな人がいろんなものを背負ってる。それで最後に一緒に逃げるシーンがあって、最後の最後で光代まで自分から引き離すところが、苦しくて苦しくて。祐一の心情を思うともうどうしたらいいのか分からないくらいの感情に飲まれてしまう。で、タイトルの「悪人」に帰ってきて、本当の悪人って誰なのか、彼は本当に悪人なのか、という命題が浮き彫りに。すごくよくできた一冊だった。
アウトレイジ
「誰が悪なのか?」ボクにはすべての登場人物が悪に見えました。ある人にとっては「良い人」であっても、違う人にとっては「悪い人=悪人」と捉えられる。そう感じた作品です。ボクは映画を見た後に、この作品を読みました。実際に、映画では台詞が多く省略、加工されていた部分があり、これはかなり楽しめました。主人公が、出会い系サイトで本気で好きな人を探すダサさ、読みたい本も、聞きたい音楽もないという、孤独。想像しただけで、ボクはおかしくなりそうです。そこから想像する、誰にも注目されない寂しい人間像。しかし、自分の感情をつらぬき通そうとする激しい気性とプライド。いやー小説っていいものですね。おもろい!!!!!!!
誰が悪なのか?
携帯サイトで知り合った女性を殺害した男。彼は別に知り合った女性と逃亡を始める。間もなく犯人は絞られ、警察の手が近づいてゆく。男の生い立ちが犯罪にどう影響しているのか。女性は何故彼と共に逃げることを選んだのか。読後どーーーんと重いものが残った。登場人物が全て悪人に思える。主人公は勿論の事、一緒に逃亡する女性・殺害された女性・当初犯人だと疑われた大学生などなど、誰もが「悪」に見える。人間誰しも程度の差はあれ悪を持っている。しかし、それが犯罪と結び付いてしまう人は僅かだ。「悪」が「加害」に変わる一線は危ういのだろうか。被害者にも「悪」はあるが、その「悪」が被害者になるきっかけを犯人に与えてしまう可能性があるというのだろうか。「善と悪」のかみ合わない二人が出会ってしまったときに起こる犯罪もあるのかもしれない。誰が「悪人」なのかを考えても答えが出てこない。
とても面白く一気に読みました!
映画化される事を知り、先に原作を拝見しました。登場人物1人1人の気持ちがとても痛々しく、そして、石橋佳乃の性格は個人的にはあまり好きではないんですが、あーこういう子いるなっていう感じで読んでいて楽しかったです。餃子屋さんでの佳乃の友達の変なイライラにとても共感できましたが、ただ、そんな佳乃も父親にとっては可愛い一人娘。 殺されてしまった後、父親の行き所のない怒りと、そして増尾圭吾 に対して発した言葉の意味を考えると、読んでいて涙が出ました。 この小説は、誰かにとっては悪人であっても、誰かにとってはかけがえのない存在。それが読んでいてとても伝わってきて、誰も憎めません。 なので、最後まで誰も責められませんでした。 どうすれば、この歯車を変えられたんだろう。あーこのモヤモヤした感じも、またこの小説の余韻としてよかった気がします。