猫鳴りのあらすじ・作品解説
猫鳴りは、2007年8月に双葉社より発売された沼田まほかるによる小説で、2010年9月には双葉文庫にて文庫化されている。 沼田まほかるは「イヤミス」(読んだ後にイヤな後味が残るミステリー)の旗手として注目されているが、本作はイヤミスではないようだ。ヒューマン小説とも取れる、今までのイヤミスとは違う内容になっている。 この作品は、待望の子どもを流産し哀しみの中で暮らす中年夫婦の元に一匹の仔猫が現れ、夫婦に寄り添うという内容。猫には不思議な存在感があって、まるでこちらのすべてを見透かしているような気さえおこさせる。そんな猫も20年の歳月が過ぎ、最後の日々を迎える。濃密な文章力で、生きとし生けるものの心の奥底を描きだした傑作である。 沼田まほかるらしく登場人物の抱える闇は深いが、ホラーやサスペンスだと思って読むと裏切られる。本書は、動物とともに暮らすことで浄化されていく人間を描いた物語なのだから。要所要所で描かれる猫のしぐさや動きにも注目したい。
猫鳴りの評価
猫鳴りの感想
第三部で、涙
物語は三部構成になっていて、全編通して猫のモンちゃんが出てきます。 第一部ではモンちゃんが夫婦に拾われるところから始まりますが、その場面の描写がなんともリアルでした。家の周りで仔猫の鳴き声を聞いた妻・信枝はまず、「いやだな」と思うのです。普通小説ならば、こんな場面では「かわいそうだから助けてあげなくちゃ」とか思うのではないでしょうか。うーん。 第三部の、モンちゃんが死んでゆく描写では、思わず涙してしまいました。わたしは動物を飼った経験がないので、自分がペットを飼っていたとしたら、こんな思いをしなければいけないんだなあ、と思わされました。 最後まで読む価値のある小説でした。
猫の死んでいく過程が何とも哀しい
ストーリーについては、これといって特筆すべきところはありません。特別つまらないわけでもないけれど、先が気になってどんどん読み進めてしまうというようなこともなく。ただ、後半から終盤にかけて、猫がだんだんと弱っていく姿が、とても印象に残りました。ペットを飼っている人間ならば、その切なさがわかるかもしれません。たかが猫、というようなことはありません。小説であるということを忘れ、「あと1日でも生きてほしい」と願ってしまいます。猫が亡くなった時には涙が出ました。動物というのは、人間にはわからない何かをわかっているような気がします。それを感じさせてくれるお話でした。