窓の魚の感想一覧
西 加奈子による小説「窓の魚」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
春夏秋冬をなぞらえるかのような登場人物
女性に売れた本 第4位という帯が目に付く1冊。「窓の魚」というタイトルからは想像も付かない世界が拡がっていました。まず読み終えた感想は「怖い」。とにかく「人間が怖い」。しかし、誰もが持ち得そうな部分でもあるのです。ナツナツは不安定です。捕らえどころがなく、時にフッとその場からいなくなってしまうような怖さと弱さを孕んでいます。本当か嘘か分からない記憶や幻想に翻弄され、心も身体もすり減らしていきます。それはナツ自身の性質でもあり、付き合っている相手であるアキオの歪んだ愛情のせいでもあります。「生」に対してアツくなれずに、どこか生と死の間を行ったり来たりしているような感覚のナツはまるで蜃気楼に歪む「夏」の陽炎のようです。生と死の狭間に生きているからこそ、そのどちらにも実は誰よりもアツく生きているのかもしれません。トウヤマタバコに依存している青年です。ぶっきらぼうであたりが強い彼は、まるで北風のよ...この感想を読む
西加奈子作品中、最高の絶望と狂気! これは恋愛小説ではない!
これは恋愛小説ではない、サイコホラーだ!本作には4人の男女が登場する。それぞれに自分の過去やトラウマ、大小の秘密を持ち、それらを絡めつつ共通の1日を語る、という実験的スタイルで話が進んでいく。2008年、小説新潮に3か月間の連載で発表された。一見するとサスペンスのようでもあり、恋愛小説のようでもある。しかし、好きという感情は含んでいても、本作は恋愛メインの小説ではない。別の人物が同じ出来事を語る中で、次第に真実がわかる、というのは推理モノではよくある展開ではあるが、本作は最後まで細かい所を明かさないので、別々の視点が纏まった時、何かの真実が見える、というスッキリした読後感を望んだ読者は、激しい肩透かしを食らうだろう。女性の死体の素性についてははっきりと語られないし、個々のキャラが行きつく先も明確にならない。スッキリどころか最終章であるアキオの章は中盤以降どす黒い闇だらけで、最後にちょっ...この感想を読む
結局どうしたかったのかわからない作品
生粋の西加奈子ファンこの作品は4人の視点からそれぞれ温泉旅行の流れに沿って思い思いのことを振り返ったり考えたり、という構成になっています。時々名前もない人のインタビューのような段落がありますが、それはなんと言いますか、アクセントとして組み込まれている文章で、特別何かを感じたり感情移入するというわけではなく読み進めました。私はこの作品に対して何も感じませんでしたし、よくわからないまま終わってしまったという気持ちがとても強いです。私は「白いしるし」や「うつくしい人」が西加奈子さんにハマるきっかけになった作品で、二作とも最後にかけて力強さを感じましたし、強烈に西ワールドに引き込まれたのを覚えています。だからこそ、一読だけでは理解できないこの作品をどう処理したらいいのか今の時点では決めかねているというのが素直な感想です。他の方の感想を調べてみたのですが、皆さんやはり生粋の西加奈子ファンで、いろ...この感想を読む
一番狂っているのは誰なのか?
2組の恋人同士からなる、仲良しグループの一泊温泉旅行についての話、に見えるけれども、実際は、一人ひとりが孤独で、ちっとも仲良しじゃないし、恋人同士も上手く行っているとは言えない…という感じ。いつも関西弁を用いることの多い著者が、今回はなぜかそれを封印。それはそれで、新しい感じで良かったです。構成としては、一人一人の独白、そして温泉旅館の他の客や、従業員の独白、で構成され、それぞれに謎の女と事件が少しずつ絡みます。そこはミステリーっぽい。グループ4人の一人一人の独白を読み進めると、最初の人よりその次の人、の方がだんだん狂っている度合いが強くなり、読み終わって考えると、最後のアキオが、一見、一番無邪気な人間でありながら、実は一番暗く、狂っている度合いが強くて、ゾクっとします。答えも救いもない話だけれども、読みやすいので、つい読み進めてしまいます。この4人の旅行はこれで最後なのだろうな。一緒...この感想を読む