不思議な美しさにあふれた夢幻的メルヘン的な小世界の中で、男の孤独なエゴイズムにヨーロッパの虚無と頽廃が色濃く浮かぶ 「ひきしお」
マルコ・フェレーリ監督の「ひきしお」は、不思議な美しさにあふれた夢幻的メルヘン的な小世界。だが、考えると、かなり怖い話なのです。社会生活を嫌った中年の画家(マルチェロ・マストロヤンニ)が、妻子を捨てて地中海の小島で暮らすことになる。唯一の友は愛犬「メランポ」(原題)だ。そこへ通りがかりのヨットを降りた都会の女(カトリーヌ・ドヌーヴ)が舞い込んで来る。女は男と抱き合って、だが男と犬の間に割り込めない。嫉妬した女は、犬を沖へ誘って水死させ、その首輪を自分がはめて犬になりかわる。"変身"した女は、男の命令に絶対服従で、じゃれてつきまとって、身をすり寄せてクークーと鳴く。自主性を捨てた彼女は、倒錯的な愛の陶酔にひたり、フロイト的な相互心理の、この異様な男女の風景は、妖しくなまめいた魅惑に満ちている。妻が自殺しかけたという知らせで、男がパリの自宅へ呼び戻される描写があるが、ここでは彼の社会人としての失格...この感想を読む
3.53.5