不思議な美しさにあふれた夢幻的メルヘン的な小世界の中で、男の孤独なエゴイズムにヨーロッパの虚無と頽廃が色濃く浮かぶ 「ひきしお」 - ひきしおの感想

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不思議な美しさにあふれた夢幻的メルヘン的な小世界の中で、男の孤独なエゴイズムにヨーロッパの虚無と頽廃が色濃く浮かぶ 「ひきしお」

3.53.5
映像
3.5
脚本
3.5
キャスト
4.0
音楽
3.0
演出
3.5

マルコ・フェレーリ監督の「ひきしお」は、不思議な美しさにあふれた夢幻的メルヘン的な小世界。だが、考えると、かなり怖い話なのです。

社会生活を嫌った中年の画家(マルチェロ・マストロヤンニ)が、妻子を捨てて地中海の小島で暮らすことになる。唯一の友は愛犬「メランポ」(原題)だ。

そこへ通りがかりのヨットを降りた都会の女(カトリーヌ・ドヌーヴ)が舞い込んで来る。女は男と抱き合って、だが男と犬の間に割り込めない。

嫉妬した女は、犬を沖へ誘って水死させ、その首輪を自分がはめて犬になりかわる。"変身"した女は、男の命令に絶対服従で、じゃれてつきまとって、身をすり寄せてクークーと鳴く。自主性を捨てた彼女は、倒錯的な愛の陶酔にひたり、フロイト的な相互心理の、この異様な男女の風景は、妖しくなまめいた魅惑に満ちている。

妻が自殺しかけたという知らせで、男がパリの自宅へ呼び戻される描写があるが、ここでは彼の社会人としての失格と、不毛の夫婦生活の断層が、深く絶望的にのぞく。

そして、再び、彼は島へと帰る。やがて嵐でボートが流され、食料も尽き、二人は脱出を図るが、島に打ち捨てられていたオンボロ戦闘機は飛び立たず、映画は二人の死を暗示して終わる-------。

人間社会のかかわり合いに疲れた男は、忠実な犬しか愛さず、犬との間にしか連帯がなかった。その犬に女が変身したとて、しょせんは馴れ合いの戯れでしかない。

この男の孤独なエゴイズムに、ヨーロッパの虚無と頽廃が色濃く浮かぶ。

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